東京都心の高級マンションの家賃値下げが止まらない。2008年9月のリーマン・ショック以降、外資系企業が大規模なリストラを断行し、高級マンションに住んでいた外国人社員が「立ち退き」を余儀なくされている。その「空室」がなかなか埋まらないのには意外な理由があった。

■ここ数か月空き室が目立ち始めた

 高級マンションの「条件」は、まずは立地。都心から2〜5キロ圏で最寄り駅から徒歩10分弱、買い物に便利、公園が近く、周囲の住宅も相応の広さがあり、閑静なことだ。そして重厚な外観、設備や内装。最近はインターネット環境やセキュリティも重視される。たとえば、渋谷から2キロ圏のある新築マンションは、正門前にゲートキーパーを配してセキュリティも万全。約30坪の2LDKとバルコニーが付いて1億3000万円の値段が付いている。

 外資系企業が幹部や社員に住まわせていたマンションには、こうした物件が少なくない。ある外資系の証券マンは、「社員の多くが、タクシーでも深夜、2、3000円で帰れる距離に住んでいる」と話す。海外赴任者の場合には会社が借り上げているケースも多い。

 しかし、事態は激変した。欧米の企業は本国でリストラの真っ只中で、日本の現地法人や支店の業務も縮小、撤退する。幹部社員も本国に帰国したり、転職を余儀なくされたりと、いまの住まいを離れなければならなくなっている。ある不動産業者は「ポツリ、ポツリだった空室が、ここ数か月のうちに目立つようになってきた」という。

■外国人仕様、日本人には合わない

 中堅のマンション販売業者は「外国人が住んでいた部屋に、そのまま日本人が住むことはむずかしい」と空室のわけを説明する。

 高級マンションは天井が高かったり、「上がりがまち」(玄関の上がり口)がなかったり、大きめの冷蔵庫が備え付けてあったり、日本人用に比べてサイズが大きい。トイレの便座も大きく、高い。これらはすべて外国人仕様に造りかえている。

 ところが、こうした「造り」がアダになっている。カーペットやフローリングはまだしも、ベッドルームは複数いらないし、キッチンの高さも違う、ゼネラル・エレクトリック(GE)製の、横向きの冷蔵庫は日本人の住まいにはあわないし、さすがに2台もいらない。設備が壊れても部品を海外から取り寄せなければならないし、一見おしゃれに見えても生活すると日本人にはあわないので、どこか落ち着かないし居心地がよくないのだ。

 外国人はそもそも、スケルトンで部屋を借り、自分の好みに部屋を「造る」。そんな高級マンションを日本人向けにリフォームするとなると、「設備のレベルを多少落としたとしても、工事が大がかりになって安くない」(前出の不動産会社)と話す。

 外資系企業で働く外国人といっても、最近は欧米だけでなく豪州、中国やインド、東南アジア系と幅広くなってきたし、もちろん日本人もいるので、必ずしも「外国人用」の物件ばかりではない。とはいえ、メンテナンス費用がかかれば賃料も下げづらくなって、「空室」は当分解消されそうにない。