秋葉原殺傷1年 消えぬ傷跡 休日ホコ天中止のまま

東京・秋葉原で起きた17人殺傷事件から8日で1年。「アキバ」の街はにぎわいを取り戻したように見えるが、休日恒例の歩行者天国は今も中止されたままだ。「もう1年経(た)とうとしてるんだね。……私達(わたしたち)の音楽が届きますように」。事件現場の交差点には、被害者へのメッセージが花束とともに添えられ、いまだ消えない惨劇の記憶を残していた。

 5月31日。事件当日と同じ初夏の日曜日、秋葉原駅前の電気街にはメイド服姿の女性たちの甲高い声が響いていた。オープンしたばかりのメイド喫茶をPRするみらのさん(16)。4月からアルバイトを始めた。「事件で怖いイメージはあったが、もう1年前。大好きなアニメの話をお客さんとするのが楽しい」と屈託なく笑った。

 加藤智大(ともひろ)被告(26)が警察官に取り押さえられた場所のそばにあるライブハウスは、陽気な歌声と若者の熱気であふれていた。ライブに出演する和太鼓奏者の桐ケ谷伝(つとお)さん(34)は「事件でこの街も一時、偏見を持たれたが、本当は温かい人ばかり。誰でも受け入れてくれるのがアキバの良さ」と話した。

 ライブハウスにいた埼玉県の会社員、自称サトシさん(23)は事件当日、刃物を振り回す加藤被告を目の当たりにした。買い物の途中に大きな物音を聞き、外に飛び出すと白いジャケット姿の加藤被告が無表情で通行人に切りかかっていた。惨劇が目に焼き付き、しばらく秋葉原から足が遠のいた。「秋葉原をめちゃくちゃにされた。早くホコ天を再開してほしい」と語った。

 現場の交差点に小さな花束があった。殺害された東京芸大4年、武藤舞さん(当時21歳)にあてたとみられるカードが添えられていた。音楽を愛した武藤さん。「マイキーへ あれから1年。あなたと共につくった音楽はまだ流れています。沢山の……ありがとう」「こんな事でまいきーに会えなくなるなんてまだ信じられない」

 千代田区は昨年8月、安全で安心なまち作りを話し合うため、住民や商店主らが参加する検討会を設置した。防犯カメラの増設や防犯パトロールの実施などの案が検討されているが、歩行者天国については、早期再開を望む商店主らと時期尚早とする住民の意見の隔たりは大きい。検討会会長で都市ジャーナリストの森野美徳さんは「地道に議論を重ねるしかない」と話す。