八ッ場ダム 江戸時代創業の旅館が休業 「国に振り回されっぱなし」

20101106-00000570-san-000-2-view八ッ場ダム問題に揺れる川原湯温泉(群馬県長野原町)で江戸期創業の老舗旅館「高田屋」が25日から休業する。代替地への移転を目指していたが、2000年に完成予定だったダムの行方は、昨夏の政権交代で不透明に。老朽化した施設でしのいできた主人の豊田明美さん(45)だが、「国に振り回されっぱなしのまま赤字が増えていく」と休業を決めた。かつて22の旅館が軒を連ねた温泉街。5軒が残るのみとなった。

 高田屋は寛政7(1795)年創業で、7代目の豊田さんが経営に携わり始めたのは1990年ごろ。「あと10年で移転できると思っていた」という。昭和初期からの施設は老朽化が目立ち始めていたが、95年に当時珍しかった砂塩風呂を導入した際にテレビ取材が殺到。バブル崩壊後の不況に逆らって売り上げを伸ばした。98年は露天風呂を造るなど部分的に設備投資を進め、集客を図った。

 ところが、2001年から08年にかけてダムの基本計画は変更となり、完成予定は15年に延びた。その間もダムの関連工事は進み、春の新緑と秋の紅葉でにぎわった国指定名勝の吾妻峡周辺は景色が変わり、観光客の足は遠のいた。約1キロにわたった温泉街の旅館や飲食店は次々と廃業。高田屋も06年ごろから赤字がかさむようになった。

 そして09年9月、民主党政権がダム建設中止を表明。豊田さんは「これ以上、先の見えない経営はできない」と判断した。休業を告げた先代の父(74)は「経営は厳しい。仕方ない」と言ったものの「将来、観光地としての景観が保てるように」と代替地に通って桜や紅葉を植え続けている。今年7月、休業を正式表明すると、常連客の予約が増え、「いつか再開して」と多くの声が寄せられた。最後の宿泊客を迎える今月24日は、12室すべてが満室だった。

 「廃業は絶対にしない。けれど、再開は何十年先になるか。分からない」。豊田さんは来年、町外で新たな事業を始める予定だ。