大学野球 斎藤佑樹が卒業した東京六大学で、この春神宮を盛り上げるのは?

「これからも大学野球をよろしくお願いします」――。昨年11月、明治神宮大会決勝戦後の場内インタビューで、早稲田大学の主将だった斎藤佑樹(北海道日本ハム)はこんなメッセージを残した。その彼が卒業した今、東京六大学リーグは人気の低下が危惧されている。 しかし、斎藤のようなアイドルこそいないものの、今年も同リーグには逸材が揃っている。

 その筆頭が明治大のエース・野村祐輔(4年)だ。1年春からマウンドに上がり、47試合で19勝233奪三振。斎藤に次ぐリーグ史上7人目の「30勝300奪三振」を射程圏内にとらえている。2年時から大学日本代表としても活躍しており、国際舞台での実績も十分だ。右腕から繰り出すボールは最速149キロのストレート、スライダー、カットボール、チェンジアップなど、どれをとっても一級品。投球だけでなくフィールディング、牽制など投手に必要な能力をすべて備えた、今秋のドラフト1位候補である。

 斎藤は「何か」を持っていると言われるが、野村が持っているのは安定感だ。「良かったり悪かったりでは、エースではない」と野村本人が言うとおり、好不調の波がなく、失点が計算できる(通算防御率は1.61)。常に結果を出すための努力や準備を怠らず、マウンドでいつも淡々と投げ続ける姿は、まさに明治大のエースナンバー『11』を背負うにふさわしい。「次は自分が盛り上げる役をできればいいですね」という野村。神宮のマウンドでは、そんな彼の「エースの矜持(きょうじ)」が見られるはずだ。

 打の主役は慶應義塾大の主将で4番を打つ伊藤隼太(4年)だ。1年春からリーグ戦に出場し、通算打率は.301。昨年は年間で5本塁打を放ち、春・秋ともに10打点以上をマーク。昨夏の世界大学選手権では日本代表の4番を務め、3本塁打10打点と銅メダル獲得に貢献した大学No.1の左のスラッガーだ。スイングスピードは大学球界で群を抜いており、ギリギリまでボールを見極めることができるのが彼の長所だ。打率と飛距離を兼ね備えた打撃と堅実な守備、さらに50m 6.0秒の俊足にスカウトたちの視線が集まっている。

「ここぞという場面では10割打者でありたい」というのが伊藤の理想だ。昨秋の早稲田大との優勝決定戦では、斎藤と対決。5点を追う8回二死一、二塁の場面で打席に入ると、センターのフェンスを直撃する三塁打を放ち、斎藤をマウンドから引きずり下ろした。「僕も何かを持っていたら、打球はフェンスを越えていたでしょうね」と本人は笑うが、あの一打は間違いなく主役引継ぎの挨拶となった。

 東京六大学のエースと4番、野村祐輔と伊藤隼太の直接対決が楽しみなのはもちろんだが、他にもまだまだ好素材はいる。

 投手では、リーグ史上最速タイの155キロの直球とキレのあるスライダーが武器の法政大・三嶋一輝(3年)、力のある直球を軸にバットの芯を外す投球が光る慶應大・福谷浩司(3年)、最速は146キロながらカットボールに抜群のキレを見せる立教大・斎藤隼(4年)らの投球に注目が集まる。

 打者では、小柄ながらパンチ力のある打撃が魅力の立教大主将・岡崎啓介(4年)、通算.350の高打率を誇り、早大の主将を斎藤から引き継いた土生翔平(4年)らのバットに期待したい。土生と野村は高校時代(広陵)のチームメイトであり、ふたりの対戦も見所のひとつだ。

 また、チームとしては東大がリーグの鍵を握る存在となりそうだ。昨年11月から早大OBで元中日の谷沢健一氏がコーチに就任し、打線がレベルアップ。「赤門旋風ふたたび」なるかどうか。

 このように今年は個人の一挙手一投足ではなく、好投手と強打者の勝負を含めた「試合そのもの」を見る楽しみが存分にありそうだ。最後に、野村と伊藤が口を揃えて語った言葉があるので紹介したい。「一試合一試合、学生らしく最後まであきらめない試合をしたい。それを見に来てほしい」。