たばこ一本足打法のJT、医薬・食品事業の実力

日本たばこ産業(JT)――。その名が示すとおり、日本国内で独占的にたばこを製造(販売シェアは約6割)、海外でも英国ガラハーなど同業大手への積極的なM&A(企業の合併・買収)を仕掛け、たばこ市場で世界3位級のシェアを持つ。そのJTにとって今後の課題となるのが医薬や食品など、たばこ以外の分野の育成である。

 医薬事業ではJTが研究開発を担い、製造販売は1998年に子会社化した鳥居薬品が担当している。食品事業では缶コーヒー「ROOTS」などの飲料を手掛けるほか、2008年に買収したテーブルマーク(旧加ト吉)を通じて冷凍食品を製造販売する。

 医薬事業では、これまで育ててきた種が花開く可能性が出てきた。JTは8月28日、自社で創製した抗HIV薬「JTK-303」を含む配合錠が、導出先の米ギリアド・サイエンシズ社を通じて、米国での製造販売承認を取得したと発表した。

 日本国内でも12年度中の製造販売承認申請を予定しており、承認取得後には、子会社の鳥居薬品が独占的に販売する契約を締結した。JTが自社開発した化合物が製造販売の承認を取得するのは「JTK-303」が初めてとなり、収益貢献への期待が膨らむ。

 これに先駆ける8月27日、JTグループは食品事業でもテコ入れ策を打ち出した。子会社のテーブルマークが水産事業から12月メドに撤退すると発表。水産物の仕入れ価格が高騰する一方で国内の食品デフレ傾向が続いているため、末端の販売価格が上げられず、赤字の状況が続いていたという。

 テーブルマークは13年3月期をメドに冷凍野菜事業からの撤退も決めた。利益率の高い米飯や麺類などに注力する方針に切り換え、選択と集中を加速させている。広告が厳しく規制されているたばこ事業と違い、食品事業では大規模な広告も打てる。食品事業についてJTは当面、国内食品メーカー並みの営業利益率3%を目指すとしている。

 「たばこ事業はJTの利益の中核。たばこ事業の競争力強化に向けた成長を最重要視する」。8月中旬、国内最大の看板商品である「マイルドセブン」ブランドの刷新を発表した際、JTの小泉光臣社長はこう宣言した。

 とはいえ、たばこをめぐる規制が年々厳しさを増しているのも確かだ。2005年にWHO(世界保健機関)のたばこ規制枠組み条約が発効してからは、特にたばこの広告宣伝やパッケージ上の表示が厳しく規制されるようになった。今回「マイルドセブン」を「メビウス」に改称する背景も、「マイルド」という名称そのものが規制の対象になりうる可能性を考慮したものであり、たばこに対する目は厳しくなっている。

 加えて、毎年さまざまな国で健康目的の増税が行われている。特に先進国では新規の顧客を取り込みづらくなり、他社のシェアをいかに奪うかという世界。6月に行われたJTの株主総会でも、たばこ事業の将来を不安視する声が相次いだ。

 JTとしては医薬や食品などたばこ以外の分野にも、一定程度の力を注いでおく必要がある。ところが、12年3月期の医薬事業は売上収益474億円、営業損失135億円と赤字。食品事業も売上収益3594億円、営業利益20億円(営業利益率0.5%)と鳴かず飛ばずだ。

 一方、たばこ事業は、直近2012年3月期(IFRS=国際会計基準)は、売上収益2兆円の約8割、営業利益4591億円の大半を稼ぐ“ドル箱”。医薬や食品がたばこを支える存在にまで育つのも、また時間と労力がかかる。結局のところは、「たばこ一本足打法」がしばらく続くことになりそうだ。