LTE「人口カバー率」に疑問 通信各社で異なる算定方法…利用者困惑?

20121017-00000000-fsi-000-6-view大容量データでも素早くやりとりできる高速データ通信規格「LTE」対応のスマートフォン(高機能携帯電話)が相次ぎ投入される中、通信各社が前面に押し出す「人口カバー率」に対して疑問の声が出ている。カバー率は総人口に対するLTE利用可能人口の比率だが、その算出方法が事業者によってまちまちなためだ。各社がアピールする高いカバー率も「うのみにできない」(業界関係者)との声もあがり、利用者を混乱させる恐れがある。

「(LTE対応エリアは)ソフトバンクが1090市区町村に対し、KDDI(au)は541市町村だ」。ソフトバンクの孫正義社長は1日の記者会見でこう述べ、同社の人口カバー率の優位性を訴えた。両社は9月21日、LTE対応の米アップルのスマホ「iPhone(アイフォーン)5」を同時発売しただけに、ライバル意識も強い。LTEの今年度末までの普及については、ソフトバンクは2ギガヘルツ周波数でカバー率91%、KDDIは2ギガヘルツと800メガヘルツの両周波数で計96%をそれぞれ目指す方針だ。

 ただ、両社の人口カバー率算定方法の詳細は不明確なうえ、KDDIは2ギガヘルツ単体のカバー率は公表しておらず、単純比較はできない。総務省によると、同省が定義する「人口カバー率」は各地の市町村役場や役場支所、出張所の庁舎に電波が届いているかどうかで判断する。市内全庁舎に電波が届けば市全域を「圏内」とし、市の総人口をカバーしたことになる。逆に1つの出張所にでも届かなければ市全域が「圏外」。総人口に占める圏内人口の比率が人口カバー率だ。

 これに対し、ソフトバンクとKDDIが採用する「実人口」カバー率では、日本地図を500メートル四方の小さな網目状の区画に区切って考える。区画の一部に電波が届けば区画全体を圏内と扱い、総人口に占める圏内人口の比率を算出する。KDDIの田中孝司社長は「役所庁舎にさえ電波が来れば全人口をカバーするというのは正確ではない」と指摘。「(区画が細かい)実人口式の方が正確」と主張する。

 ただ、両社とも区画のうち何割程度の面積に電波が届けば「圏内」と定義するのか明確な数値は非公表のため、実際にどちらの電波がより多くの地域、利用者に届くかは不明だ。一方、10年に初めてLTE対応の携帯電話を発売したNTTドコモは、総務省式の人口カバー率を採用。実際、役場周辺には商業地や交通網、住宅地が集中する傾向が強く、庁舎ベースの人口カバー率の方が「生活実態を反映している」(アナリスト)との見方も多い。

 ドコモは当初、今年度末のカバー目標を70%としていたが、加藤薫社長が11日、基地局整備を前倒しして75%を目指す方針を公表。ドコモは実人口方式で試算した場合でも、「他社よりもっと大きい数字が出た」(加藤社長)とするものの、この試算結果は非公表だ。

 LTE対応の携帯端末の普及が確実視される中、対応エリアの算出・表示方法が事業者ごとに異なれば、事業者によっては「『カバー率100%』でもつながらない」という事態も想定される。このため、3社の公表数字について「単純比較はできない」(業界関係者)との声も出ている。総務省はカバー率について、「ユーザーの利便性に最大限配慮した対応が求められる」(総合通信基盤局)としている。