美代子なぜ自殺? 「世間に死をもって抗議」か 尼崎事件

留置場で自ら命を絶った角田美代子容疑者(64)。連続不審死事件で中心的な役割を担っていたとされる同容疑者は、周囲と衝突を繰り返し、血のつながらない者たちと作った「ファミリー」の結束にこだわった。「希代の鬼女」と呼ばれた女が自ら死を選んだ背景に何があるのか。

 12日午前、記者会見した主任弁護人の高木甫弁護士は勾留中の美代子容疑者について「『生きている意味がない。家族に会えなくなる』と口にするようになり、心配していた。裁判で真相を述べる必要があると励ましてきたが、説得が及ばず残念だ」との声明を読み上げた。男女3遺体が見つかった10月以降は、「死んだら伝えてほしいことがある」と漏らしたこともあったという。

 高木弁護士が最後に接見したのは11日夕。話を終えて席を立つ際には、美代子容疑者が起立して深々と頭を下げながら礼を述べたといい、「精神的に参っていたことは間違いない」と当時の様子を振り返った。

 「えっ、あの美代子が。信じられへん…」

 美代子容疑者と古くから付き合いのある知人は、その死を知って絶句した。しばらくの沈黙の後、こう続けた。

 「反省や後悔で自殺するような、そんなタマやない。ずぶとく生きていくと思てたけどな」

 兵庫県尼崎市で生まれ育った美代子容疑者。幼少時から非行に走り、気にくわないことがあると執拗(しつよう)にクレームをつけるなど周囲とのトラブルを繰り返した。

 「祖母宅の植木をめぐって隣人を恫喝(どうかつ)したり、訪ねてきた保険外交員を殴りつけたり、とトラブルが絶えなかった」(近隣住人)

 スナック勤めなどを除いて正業に就くこともなく、市内のマンションで血のつながらない者と奇妙な同居生活を送る中で事件が起きた。

 「内縁の夫や義妹、息子のほか、他人と養子縁組を繰り返して自分の家族に迎えた。独特のファミリーを築いていく過程で周囲で不審死する人が相次いだ。その中心にいたのが美代子容疑者だった」(捜査関係者)

 事件の闇を解明しようという矢先に自ら命を絶つことで永遠に口をつぐんだ美代子容疑者はどんな心理状態にあったのか。

 精神科医の日向野春総氏は、美代子容疑者の人格について「いわゆるサイコパス、反社会的境界性人格障害と思われる。自分のことを絶対視して反発する者を敵視し攻撃する。思い込みが激しく、本質的に『自分は正しい』という心理がある」と分析。その上で、今回の自殺の背景をこうみる。「外にいる時は攻撃する対象がいるため、躁状態にあるが、1人になって内省すると被害妄想的な心理が働く。落ち込んでうつになったというよりは、世間への反発心から自殺衝動を起こしたのではないか。心情的には『自決』。テレビや新聞の報道を人づてに聞いて知っているはずで、『世間に死をもって抗議したい』と思ったのでは」(日向野氏)

 多くの謎を残したまま人生にケリをつけた美代子容疑者。死の瞬間、胸に去来したものは何だったのか。
尼崎事件 角田美代子