ソニーのスマホ、どう巻き返す?

パナソニック、シャープは2013年3月期も巨額最終赤字を計上する。それとの比較では、今期最終黒字見込みのソニーは堅調なように見えるから不思議なものだ。

しかし、ソニーは09年3月期以降、4期連続の最終赤字に苦しんできた。主柱であるテレビが12年3月期まで8期連続の赤字、今期も赤字である。それだけでなく、エレクトロニクス事業は全般に苦戦しており、安定収益源と言えるのは独自のCMOSイメージセンサーを擁するデジタルイメージング部門くらいのもの。かつてエレクトロニクスとならぶ柱だったゲームも冴えない。

 タブレット、スマートフォン(スマホ)など急成長分野に乗り遅れているためであり、韓国のサムスン電子、米国アップルなどに業界リーダーの座を奪われてから久しい。テレビ用のパネルを生産していなかったため、たまたまパナソニック、シャープより軽傷なだけで、苦しい状態は同じだ。

平井社長は「現実路線」

この状況を打開すべく、昨年4月に就任した平井一夫社長は「現実路線」により損益の改善を図ろうとしている。テレビ事業は、低価格帯で数量を追う戦略をあらためることで来期(14年3月期)の赤字解消を目指す。メディカル事業の育成、高級デジカメの投入など攻めの施策も目立つ。サムスン電子との液晶合弁会社の解消、小型液晶のスピンアウト、ケミカル事業の売却、自社保有ビルの売却などリストラ、スリム化を断行した。

 が、目先の大きな焦点はスマホ、タブレット端末など成長分野における巻き返し策だろう。スマホについてはエリクソンとの合弁を解消し100%子会社化してソニーグループとの連携を強化する方向に舵を切った。とはいえ、ソニーや他のグループの製品との連携は、まだまだこれからだ。本体が手掛けているタブレット端末については、まったく存在感を示せていないのが実情。サムスン、アップルが覇権を競うこれらの分野で新しい境地を開けるかどうかが現在の最大の焦点といえる。


1月17日に記者の取材に応じた平井社長の発言のうち、スマホ戦略に関する発言を中心に以下にまとめてみた。

フルスピードで走ってきた

 ――社長就任からの9カ月間をどう振り返るか。

 攻めも守りもいろいろな経営判断をやってきた。液晶におけるサムスン電子との合弁解消、小型液晶のスピンアウト、ケミカル事業の売却などが守りの部分。攻めとしてはゲーム会社のガイカイの買収、オリンパスとの協業などがある。守りと攻めをそれぞれ進めてきた。商品軸でいえば、リードタイムの関係でまだまだ新体制後に開発されたものは多くないが、攻めの姿勢で開発した商品が出始めている。
 
 ソニーがこれだけ短いスパンで、ここまでの案件をディシジョンしたことは過去になかったと思う。全世界を飛びまくり、全速力で走っている。もちろん周りのマネジメントも一緒になって、フルスピードで走ってきた。

 9カ月をかけて、会社の軸というか向きを変えることができた。ほぼ正しい向きに持ってこられたと思っている。次のステップは、向けた方向に進みだすということ。もう進み始めた、という認識はある。現場を回っても、進む方向の議論ではなく、「では私は何をすればいいんですか。どう変えていきましょうか」という具体的な議論に変わりつつある。

 ――エレクトロニクス事業は2012年度の黒字化が困難になった。黒字化には何が必要なのか。

 奇策というものはないと、ずっと申し上げている。コストをどのように絞っていくか。そして最終的には、スポーツの例えでいえば攻めてポイントを取らないと点数は入らない。守っているだけではなく攻めに転じることが必要になってくる。

 攻めに転じる上で必要なことはお客様に感動を与えるような強い製品を、速く、タイムリーに、さまざまな分野で出していくことが大事だと思っている。

スマホ自体の商品力強化でカニバリに対応

 ――11月の決算発表の際、コンパクトデジタルカメラ、パソコン、液晶テレビ、携帯型ゲーム機の売り上げ台数見通しを下方修正した。タブレット、スマホなどに食われる状況も生まれている。どう対応するのか。

 製品どうしのカニバリゼーション(共食い)は確かにある。具体的には2つあって、1つはスマホでカジュアルゲームをする人が増えたのでプレイステーションが食われる、というもの。もう一つがスマホで写真や動画を撮影するようになった分、デジカメの「サイバーショット」、ビデオカメラの「ハンディカム」が食われる。

 そのことを認識した上で何をやるかが重要になるわけだが、3つある。1つはアンドロイドOSの上でプレイステーションのゲームを楽しんでもらうようにする。つまり、自らもカジュアルゲームのマーケットに入っていく。2つめは、先進国マーケットではローエンドのサイバーショットが影響を受けているので、1インチサイズのセンサーを入れた「RX-100」や、フルサイズセンサーを入れた「RX-1」など付加価値を取れるものに軸足を変えていく。3つめはスマホ自体を強化すること。サイバーショットは買わない人であってもスマホについてはエクスペリアを買ってもらう。スマホ自体の商品力の強化は重要。この3つを進めていく。

 ――アップルがアイフォーンを減産しているとの報道がある。スマホにおけるシェア奪還策は。

 他社についてコメントするべきではないが、5年前に携帯電話の市場でまったく新しい会社がリーダーシップをとることでマーケットが変わった。ダイナミックなマーケットと認識している。日本、アメリカに目が向きがちだが、ソニーは地域によっては2位のところもある。先日のCES(コンシュマー・エレクトロニクスショー)で発表した「エクスペリアZ」(=写真=)は高い評価をもらっている。商品で強い物を出していくことで、ソニーモバイルとしてシェアを高めていくこと重要だ。

まずはシェア3位を固める

 ――スマホではシェアトップを目指しているのか。

 現実を直視している。いまメジャーな地域でシェア3位となっているが、1位、2位と比べるとシェアは非常に小さい。まずはこの3位というものを確実なものにしていく。2位のところでは、2位を固めていくようにしたい。

 ――アンドロイドスマホでソニーらしさは出せるのか。イメージセンサーは外販もしているため差異化は難しいのではないか。

 イメージセンサーについては最新のイメージセンサーを、まずはソニーモバイルの製品に搭載する。これは単純に供給するのではなく、一緒に薄型化に取り組み、よりコンパクトなフォームファクターにしていくという取り組みをしているので単なる外販とはレベルが違うと認識している。

 画質についても、ソニーにはブラビアエンジンなどがあり、やはり違う。音へのこだわりもある。ソニーが持っているさまざまな技術、ノウハウを凝縮することによって、アンドロイドというOSの中でも、ソニーのエクスペリアは差異化できると考えている。

 ――サムスン電子はアンドロイド、ウィンドウズフォンに加えて、第3のOSとしてティゼンの採用を明らかにしている。ソニーならではの強みということではプレイステーションOSを採用し、プレイステーションのゲームをすべてできるようにするべきでは? 

 プレイステーションOSはソニーの大切な資産。プレイステーションのOSを使うことで魅力的なプラスアルファを考えてもいいと考えている。今までとは違って、ソニー・コンピュータエンタテインメントも含めていろいろなことを検討している。現在はアンドロイドOSだけになっているが、それは市場の状況がそうなっているから。市場の状況に応じて他のOSについても検討をしていく。