元弁護士会副会長「1400万円横領」 被後見人から 東京地検が家宅捜索

元東京弁護士会副会長の松原厚弁護士(76)が成年後見人を務めていた女性の預金など計約3900万円を着服した問題があり、東京地検特捜部が業務上横領などの容疑で、関係先を家宅捜索したことが21日、関係者の話で分かった。松原弁護士は産経新聞の取材に「少なくとも1400万円横領し、ローンの返済などに使った」と認めており、特捜部は立件に向けて捜査している。

 関係者によると、松原弁護士は平成19年、千葉県八千代市の女性の成年後見人に選任され、銀行口座などを管理していたが、選任後、女性が所有する不動産の売却益などから約1400万円を横領。さらに22〜23年、女性名義の銀行口座から計2500万円を自身の口座に移すなどした疑いが持たれている。

 同弁護士会に昨年11月に情報提供があり、12月から内部の綱紀委員会で調査を進めていた。同弁護士会は同罪で、近く松原弁護士を特捜部に刑事告発する方針。

 松原弁護士は昭和41年に司法試験合格。日本弁護士連合会の国選弁護委員会委員などを務め、平成3年度の1年間、東京弁護士会の副会長を務めた。

 ■不動産投資失敗「カネない」 電気・ガス止まる、トイレは公園で

 テーブルにはカップ酒の空き瓶、床に散乱した衣服や菓子袋…。東京都大田区の住宅街に建つ松原厚弁護士の自宅内は弁護士という肩書にふさわしくないものだった。電気やガスも料金滞納で止められており、取材に横領を認めた上で「弁済を考えているがカネがない」と話した松原弁護士。弁護士会の副会長まで上り詰めながら、なぜ捜査の手が伸びるまでに凋落(ちょうらく)したのか。

 「手元にあるのは2千、3千円。電気がないので暗くなれば寝るだけだ」

 自宅で室内着姿で取材に応じた松原弁護士は、最近の生活をそう語った。トイレは公園ですませ、食費節約のため庭に生えている木の実を食べたこともあるという。

 3900万円を横領したとする同会の主張に対しては「実際には約2500万円は必要経費だった」と反論。後見人を務めていた女性の接見には往復のタクシー代が数万円かかっていたほか、土産代や食事代などに使っていたと主張した。だが、残る約1400万円は「自宅を改修した際のローン返済や生活費に充てていた」と認めた。

 弁済の意思を尋ねると、「するつもりだが、数百万円の預金をしている銀行通帳が入ったスーツケースを自宅から盗まれており、出金できない。家具の売却などで現金を作っている」と返答。刑事責任を問われる可能性については「被害額も小さく、逮捕まではされないと思うが、刑務所に入る覚悟はできている」と開き直ったようなそぶりを見せた。

 なぜ横領に手を染めたのか。

 松原弁護士や親族によると、不動産投資を行っていたが、バブル経済の崩壊で億単位の負債を抱えた。その結果、ストレスで酒量が増え、仕事に支障をきたし、さらに酒が増える悪循環に陥ったという。千代田区の事務所も家賃滞納で退去させられ、近年は弁護士業務も事実上行っていない。

 妻とも離婚し、自宅近くに住む娘とも絶縁状態。松原弁護士は「負債総額もよく分からない。バブルに踊らされていたとしか、いいようがない」と話す。

 同弁護士会に所属する知人の弁護士は「優れた人格のほか、派閥を作る政治力がなければ副会長の座はつかめない。松原氏自身も立派な弁護士で人望もあった」と話す。

 松原弁護士は数年前から、当時の役員が集まる懇親会にも顔を出さなくなっていたという。

 別の知人弁護士は「むしろ、本人が福祉サービスを受けなくてはいけない状況。本当は成年後見人が務まる状態ではなかったのではないか」とため息をついた。

【用語解説】成年後見制度

認知症患者や知的・精神障害者ら判断能力が不十分な人が詐欺被害などに遭うのを防ぐため、親族や弁護士、税理士が後見人として財産を管理したり、契約を代行したりできる仕組み。民法に規定がある。本人や親族らからの請求に基づき、家庭裁判所が選任する。近年、制度を悪用した横領事件が多発しており、日本弁護士連合会などが対策を検討している。