ソニー解体?  株主との神経戦

「ものづくり復活を目指すアベノミクスの経済改革、3本の矢の成長戦略により、ソニーはこれまでにない大きなチャンスを迎えている」

130億ドルの運用規模を誇るヘッジファンドで、15.9億ドルをソニーに投じ、ソニーの議決権のうち6.3%程度を保有していると主張するサード・ポイント。同社のダニエル・ローブCEOは5月14日、ソニー本社を訪問して平井一夫社長と面談。その後、米国ニューヨーク・タイムズ電子版上に、アベノミクスの波に乗るようにソニーの平井社長に求める、4ページつづりの書面を公開した。

株価は60%上昇する

サード・ポイントのソニー改革案は次のようなものだ。

 最初のステップとして、映画や音楽などのエンターテインメント(エンタメ)事業を上場させて、15〜20%の株式を売却する。サード・ポイントの分析では、競合他社に比べると利益率が低いため、株式上場によって、子会社経営陣に適切なインセンティブを与えれば利益額が50%改善し、ソニーの株価が540円分上がるのだという。

 二つ目のステップが上場によって得た資金を元にしたエレクトロニクス(エレキ)事業の絞り込みだ。製品分野が多岐にわたっているため、パソコンやDVDレコーダーのような規模の小さい事業から撤退することでソニーの株価は525円上昇する余地があり、さらにそこから200円上がっても不思議ではない、というのだ。この二つのステップを経て、ソニーの株価を60%引き上げられるという。

 根拠がわかりにくいものの、具体的な数字がたくさん並んでおり、いかにも打算的な提案だ。アクティビスト型ヘッジファンドとはこういうものなのだろう。

 サード・ポイントは昨年、6%弱保有する米ヤフーの経営トップの学歴詐称を暴き、経営陣の入れ替えを主導。グーグルから呼び寄せたマリッサ・メイヤー新CEOの下、ヤフーは再生の道を歩み出し、株価も上昇している。アップルに対して、手元キャッシュの株主還元策実行を求め、成し遂げたのもサード・ポイントだった。

一方で、ソニーに対する態度は不気味なほど紳士的だ。今回の提案に対する回答の期限を区切っているわけでも、平井社長の経営手腕を批判しているわけでもない。「ソニーは変わっていく」という平井社長の経営姿勢をサポートし、アドバイスをする、という姿勢だ。

 そのため平井社長としては、はなから提案を拒絶する理由はない。6月20日の株主総会の議案として提案しているわけでもないため、時間をかけて検討を進めていく方向だ。

株価は好調に推移

サード・ポイントの提案が表面化する前から、ソニーの株価は好調に推移している。4月末に2012年度決算を上方修正してからは急上昇を記録。現時点でサード・ポイントは大きな含み益を得ているはずであり、ヤフーのときのように強硬姿勢に転じることはないかもしれない。

 それでも、サード・ポイントの提案内容が突飛なものではないことは確か。もし拒否をするのであれば、「なぜエンタメ事業を上場できないのか」「なぜパソコン、DVDレコーダーなどの事業を継続する必要があるのか」を理路整然と説明する必要がある。

 平井社長は、以下のインタビューで「中途半端な議論をするつもりはまったくないし、しっかり議論したい」と明言した。今期1000億円の営業利益を目指すエレキ再建に専念しつつも、大株主との神経戦に取り組む構えだ。