半沢直樹に学ぶ「芸人枠」の使い方

視聴率32・9%を記録したTBS日曜劇場「半沢直樹」だが、お笑いタレント系の出演者が多いのも特徴だ。ざっと確認しただけで現在までに7人。ドラマでの「芸人枠」は失敗に終わる例がほとんどである印象だけれど、「半沢直樹」は人選も起用法も絶妙なのだ。

顔触れを挙げると

1 笑福亭鶴瓶→半沢の父親、ネジ工場の経営者

2 緋田康人(元ビシバシステム)→東京中央銀行の小木曽次長

3 レツゴーじゅん(レツゴー三匹)→関西経済界の大物

4 モロ師岡→半沢の部下

5 ラサール石井(コント赤信号)→裏帳簿に関与する西大阪スチール経理部長

6 木下隆行(TKO)→ライバル会社の融資部次長

7 ダンカン(たけし軍団)→半沢と持ちつ持たれつの週刊誌記者

緋田が演じる「小木曽次長」は、大阪西支店を舞台にした第1部を盛り上げた1人。解散したお笑いトリオ、ビシバシステムの元メンバーで、半沢を失脚させようとセコい手を尽くす小物感が小気味よかった。机をバンバンたたきながら相手を精神的に追い詰めるシーンも話題になった。

 どんな役にも抜群の存在感を放つ鶴瓶は今回も染みたけれど、意外だったのはTKO木下の「いかにもいそう」な雰囲気。半沢と慶大で一緒だった他行の融資部次長という役どころで、東京編の第6話で登場した。スーツ姿で「久しぶり〜、わはは」と半沢と握手するのだが、きちんとエリート銀行員に見えるから不思議。バブル時代の銀行は体育会系を山ほど採用したので、ラグビー部出身という設定は何の違和感もなかった。着席すると、すべてお見通しの笑顔で「話ってなに」。堺雅人と及川光博を相手に堂々と渡り合っていて、「せんとくん」や「鶴瓶のものまね」をまったく感じさせないリアリティーだった。

 顔触れをみると、同じお笑い系でも、芝居仕立てのコントを得意とする人たちが多いことが分かる。緋田も木下もラサール石井もそうだし、モロ師岡は元ピン芸人。80年代の深夜のネタ番組でよく見たけれど、元妻から送られてきたお菓子を食べた犬が死ぬとか、独特の1人コントで人気だった。鶴瓶は落語の人だが、落語も究極の一人芝居みたいなもの。ダンカンも、映画監督もこなす芝居勘の持ち主だ。

 うまい人もいるのでドラマの「芸人枠」自体は否定しないけれど、個人的にはバラエティー番組の芸風そのままでの起用だけは勘弁してもらいたいと思っている。職員室のにぎやかし役とか、変態キャラの刑事とか、ドジッ子OLとか、あまりにも芸風そのままで登場されると、フィクションの世界からいきなり現実に引き戻されて、こちらの集中が切れるのだ。受け手よりもギョーカイ受けを狙っているような起用は雑だし、ドラマとバラエティーの融合がハマった例をあまり見たことがない。お笑いタレントの持ち芸はしかるべきお笑いの場で満喫できれば良く、せっかくドラマに起用するなら「こんな雰囲気も出せるのか」というギャップで楽しませてほしいのだ。

 以前、ある民放で新ドラマの発表資料を見せられた際、いてもいなくてもいいような役どころに旬を過ぎたお笑いタレントが配置されていて、宣伝マンから「○○枠なんで仕方ないんですよ」と、大手お笑い事務所の社名を挙げてグチられたことがある。こんな脱力のキャスティングばかりではないだろうが、いつのころからか、送り手自身が首をひねるケースも混在しているというのが、今のドラマの現実のひとつだったりする。

 逆に言えば「枠」とかセコいこと言わずに、必要なら「半沢直樹」みたいにバンバン何人でも使えばいいのだ。もともと強い個性と表現力を持つ人たちだから、練られた狙いがあって、きちんとハマって映っていれば、ドラマの魅力にもなる。

 「半沢直樹」のお笑い勢の中に、「職場の陽気者」みたいなしょーもない起用があったら、ここまで集中して楽しめたかどうか。いい味を出せるお笑いタレントを選び、必要な役を大胆に託したまじめさに日曜劇場のセンスを感じるし、そこのセンスがない送り手は、むやみに手を出さない方がお互いのためだと思うのである。