半沢直樹が、島耕作に化けるための条件

20130913-00000020-mantan-000-1-view「やられたら倍返し! 」が決めぜりふのTVドラマ「半沢直樹」の話題をあちこちで耳にします。

 このドラマは作家の池井戸潤氏の人気小説が原作。主人公・半沢直樹が銀行の内外に現れる敵(上司や国税庁など)と格闘していく様子を描いた作品です。平均視聴率(ビデオリサーチ調べ)は関東地区で30.0%を超え、最終回に向けての展開に注目が集まっています。東洋経済オンラインに掲載された、ドラマの演出を手掛ける福澤克雄氏によると、

・登場人物に女性が少ない
・恋愛もない

 加えて、銀行という“男”の世界が舞台。ドラマのメインターゲットと言われる女性が「見ない」前提で、ソコソコ視聴率が取れたらいい……と想定していた企画であったそうです。ところがふたを開ければ今年最大のヒット作に。

 ちなみに当方も欠かさず見ては、職場で「実は及川ミッチーは半沢の敵なのでは? 」などと話題にしています。オフィス街の居酒屋で見かけた若手会社員が、上司に対する不満を口にした途端、会社員仲間から

 「そんなヒドイ言い方をされたのなら、倍返しどころか10倍にして返したらいい! 」

 と切り返され、「そうだ、そうだ」と盛り上がる光景にも出くわしました。ドラマの展開は、水戸黄門のような勧善懲悪。理不尽に思える上司=悪と想定して「やっつけてしまえ」と言いたいのでしょう。ただ、現実的に職場で上司に対して対抗するのは至難の業、ましてや「やっつける」となると、可能性自体あるのかどうか。「実際には無理だから痛快」と思いつつ、半沢直樹に願いを託している面もあるでしょう。

 ちなみに半沢直樹の生き方に共感しているのは若手だけではありません。会員制転職サイト「ビズリーチ」が会員のエグゼクティブ(平均年収1110万円、平均年齢45歳)を対象に聞いたところ、実に半数以上が上司や権力者に屈しない半沢直樹の強さに共感。

「主人公が上司に屈しない強さ」
「上司や権力者に対して『倍返し』でやり返す痛快さ」

 が人気の理由でした。「倍返し」的な話題は、番組終了後も続くのは間違いないでしょう。

なぜ島耕作は出世できたのか?

そんな半沢直樹の活躍を見ていて気になるのは

 《はたして半沢直樹は将来、役員くらいまで出世できるのか》

 ということ。これだけ上司と対立してしまえば「煙たい存在」として疎まれるのではないか?  あるいは行内で存在感が出て、出世レースの先頭を走れるのか? 

 大前提として、銀行の出世レースは減点主義です。これから担当する融資先に対する焦げ付きなどで、過去の高い評価は吹っ飛んでしまう可能性も大きいでしょう。あれだけの強敵に対して対決姿勢を示していたら、いつ足元をすくわれ、出向させられてしまってもおかしくありません。

 ただ、漫画の世界では似たような境遇から大出世して、社長にまで上り詰めた人がいます。それが、あの「島耕作」です。

 こちらは1970年に初芝電器産業株式会社入社。課長時代はうだつが上がらない存在で、出向して辛酸をなめた時期もありました。小心者で出世意欲も低く、マイペースな管理職。ドラマの半沢直樹と同じ世代の頃の話です。

 ただ、島耕作は映画会社の買収などで活躍して部長に昇進すると、その後、とんとん拍子に役員、社長、会長と出世街道をひた走ることになりました。派閥争いに巻き込まれることを避けつつ、仕事に没頭。気づけば出世争いをしていた関係者が続々と討ち死にし、島耕作が偉くなっていったのです。

 この漫画が世に登場して30年目。現在、65歳の島会長。一方で半沢氏は40歳(推定)。その25年後はどうなっているでしょうか。支店長や役員となっているのか。それとも出向先にいるのか?

金融機関に勤務している知人に

 「半沢直樹のような銀行員は出世するの? 」

 と何人も聞いてみましたが

 「何とも言えません。支店長くらいまではいけるかもしれないけど」

 とあいまいな答えばかり。それくらい先行き不透明なのが金融機関の人事なのかもしれません。

 「ただ、ひとつ大事なのは」

 とよく出てきた言葉が、

 「引き上げてくれる存在がいるかにかかっている」

 ということ。俗に言う「派閥」に入って力を蓄える……といったの話ではありません。これまでの仕事ぶりから期待して、役割を任せてくれる上司や役員が存在するか? ということです。

 島耕作も派閥に入っていないながら上司・役員たちから一目置かれ、引き上げられて社長に上り詰めました。半沢直樹も行内で引き上げてくれる存在が誰か登場するか?  注目していきたいと思います。現状では常務とは対立状態、北大路欣也氏が演じる中野頭取が引き上げてくれる存在になる可能性がありそうですが、どうでしょうか。

「お目がね」にかなうか否か

さて、あなたには自分を引き上げてくれる存在はいますか?  出世を決めるのは役員とか人事部長とか、社員を引き上げる力のあるキーマン。このキーマンの「お目がね」にかなわないと出世はできません。当方も職場で「お目がね」にかなわず、課長止まりに終わった人を何人も見ました。たとえば、事務機器商社で

 「営業成績がいいけど、理屈っぽくて面倒。だから、人の上に立つ人材ではないね」

 と、マイナスの印象をキーマンに持たれ、同期と比べて明らかに出世が遅れたPさん。

営業課長として部下からの信頼は高いのですが、何かと会社の批判を口にすることが会社のキーマンのお目がねから外れる要因になったようです。会社での昇進は、管理職になるくらいまでは目先の業績で決まりますが、そこから先はキーマン次第というのが現実です。

 ゴマをするべき、と言いたいのではありません。重要なのは、キーマンから見て「人の上に立つ人材」とか「わが社の幹部にふさわしい」と思われるかどうかです。島耕作も、世間で抜擢されていく人も、こうした「お目がね」にかなったから引き上げられ出世していくのです。なので、出世したいなら、キーマンの「お目がね」の基準を理解して仕事をするのも大切かもしれません。

 ちなみに島耕作の仕事ぶりはどうだったのか?  当初、課長時代は出世が遅れぎみであったのに、部長になってから急激に出世街道を驀進します。そんな出世街道に乗れた理由を分析した「島耕作に学ぶ出世の秘訣」というサイトがあるのですが、そこで当方が注目した出世するためのポイントを3つ紹介します。それは、

・出向や異動を打診されたら、よく考えたうえでイエスと返答
・当初の方針とは違っても、目的達成のためなら迷わず方針を変換する
・自分の考えに固執せず、郷に入りては郷に従う

 要は「柔軟性があり変化に強く、いかなる状況にも対応ができそう」と思える仕事ぶりであることです。

 いくら今の仕事で活躍していても、融通が利かない、ひとつのことに固執するのではダメだということではないでしょうか。まさに変化に強いことを示せることが、引き上げられる人材のキーワードなのかもしれません。

 これまで取材してきたケースを振り返っても同じことが言えます。会社で管理職から役員へと順調に出世している人は変化に強く、柔軟に対応ができるタイプの人ばかりでした。さらに言えば、自己主張が強すぎず、周囲の意見を受け入れることができる。こうした人が出世していく傾向があるようです。

 さて、一般的に出世する人は「やり手」でアクレッシブなイメージ。かなり実態と懸け離れていませんか? 一方の半沢直樹はどうか。これからの出世レースにも注目していきたいものです。