シャープは増資で乗り切れるか/見えない成長シナリオ

経営再建中のシャープが9月18日、最大約1500億円の公募増資と約175億円の第三者割当増資の実施を発表しました。一時は倒産の危機までささやかれたシャープですが、今回の資金調達で完全復活となるのでしょうか?

 同社は、液晶ビジネスが順調だった時代には、50%近い自己資本比率という万全の財務体質を維持していました。しかし経営危機が表面化したことで巨額赤字の計上に迫られ、現在では自己資本比率が6%台にまで低下してします。大規模な設備投資を伴う製造業としては、これはかなり危険な水準であり、増資を実施して財務体質を強化しないことには、会社の存続が難しいという状況です。

2000億円の社債償還も控える

しかも9月末には投資家向けに発行していた2000億円の転換社債(CB)償還が控えており、この償還原資を得るために銀行からさらに追加融資を受けている状況です。少なくとも数字の上ではシャープの経営危機はまだ終わっていないのです。

 今回の増資に成功すれば、同社の自己資本比率は10%を超えることになり、とりあえず危機的な状況からは脱することができます。同社が名実ともに完全復活するためには、今後の成長シナリオを明らかにする必要があると考えられますが、現時点においてその見通しは立っていません。

 シャープの経営危機が表面化した当初は、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の支援を受けて事業を再生する計画でした。しかしシャープの経営陣は、ホンハイ傘下に入ってしまうと厳しいリストラを要請されるのではないかと懸念し、同社からの支援を断ってしまいました。ホンハイはよく知られているように、アップルのiPhoneやiPadを製造している巨大メーカーで、液晶パネルを得意とするシャープとは、非常によい相互補完関係にあります。

鴻海に代わる提携先は

シャープは経営再建のため、ホンハイに代わる新しいパートナーを探す必要に迫られていますが、よい提携先がなかなか見つかりません。韓国サムスン電子との複写機事業の提携交渉は頓挫し、米クアルコムとの提携も一部の液晶パネル分野に限定されています。今回、第三者割当増資を引き受けるLIXILグループ、マキタ、デンソーの各社は、部分的な提携相手にはなりますが、ホンハイのような包括的な提携関係を結べる相手ではありません。

 今のところシャープは独力で今後の成長戦略を描く必要に迫られているわけですが、そもそも独力の展開が可能であれば、今のような経営危機にはなっていなかったと考えられます。その意味で、今回の増資はあくまで数字上の経営改善でしかなく、本質的な経営環境の改善には至っていないと理解した方がよいでしょう。