東京・八王子の元カリスマホスト失踪 知人の男に裁判官がつけた異例の指摘とは?

「カネのことでトラブルを抱えている」。東京都八王子市のホストクラブ元経営者、土田正道さん(45)は平成22年11月、友人にこう言い残して行方不明になった。それから約1年10カ月。土田さんの携帯電話を壊して捨てたとして、器物損壊罪に問われた知人の男(25)は9月の公判で、失踪への関与をきっぱりと否定したが、裁判官から他の犯罪への関与を疑わせる異例の指摘をつけられた。どうやって携帯電話を手に入れ、なぜ捨てたのか…。男の説明では、捜査関係者だけでなく、裁判官も納得させられなかったようだ。

あいまいな犯行動機…裁判官「疑念を拭えず」

「土田さんがどこにいるのかは知らない。証拠隠滅に手を貸したつもりもなかった」。9月19日に東京地裁立川支部で開かれた初公判で、男は検察側の被告人質問にこう弁明した。

 男が問われていたのは、ホストクラブ経営、玄地栄一郎被告(30)=同罪で公判中=と共謀し、22年11月25日、土田さんの携帯電話を両手で折るなどして壊し、東京都檜原村の山中に埋めたというものだ。

 男は起訴内容を全面的に認め、「玄地被告に頼まれ、携帯電話を捨てた」と主張した。交際相手に車を運転させ、途中、携帯電話の電源を入れたり切ったりを繰り返しながら移動し、指紋をふき取った上で捨てたことにまで言及した。

 ただ、携帯電話の入手方法については「玄地被告から『ポストに入っているから処分してほしい』といわれた。普段から世話になっていたので断られなかった」と説明し、「土田さんから取り上げたわけではない」と訴えた。

9月26日の判決公判で、深見玲子裁判官は懲役1年、執行猶予3年(求刑懲役1年)の有罪判決を言い渡した。ただ、続いて読み上げた判決理由には、男にとって厳しい言葉が並べられていた。

 「共犯者の依頼で犯行に及んだとあいまいな供述をするのみで、動機は定かではない」 

 「他の何らかの犯罪との関わりについての疑念を払拭できない」

 判決理由を聞いた捜査関係者は「公判で本当のことを話しているとは思っていない」と同調した。

「カネでトラブル」…八王子駅近くで消えた足取り

土田さんは22年11月25日朝、妻に「仕事に出かける。週末には帰る」と告げて、八王子市内の自宅を出た。午前中には妻と何度か電話。仕事の約束をしていたという友人にも電話で「少し遅れる」などと連絡したが、午後以降は全く連絡が取れなくなった。

 数日後、妻はこの友人に連絡。その際、土田さんが「カネのことでトラブルを抱えている。丸1日連絡が取れなかったら警察や弁護士に相談してほしい」と友人に打ち明けていたことを聞かされ、警視庁八王子署に捜索願を出した。

 捜査1課は、土田さんが事件に巻き込まれた可能性が高いとみて捜査を開始。失踪当日の昼過ぎ、JR八王子駅近くの防犯カメラに、土田さんがコインパーキングに車を止め、駅方向に歩いて向かう姿が映っていたが、その後の足取りはつかめなかった。

 ただ、土田さんが言い残した「トラブル」については、複数の情報が寄せられた。その中から、ホストクラブの経営などをめぐってトラブルになっていた玄地被告と男が浮上した。

公判での検察側の冒頭陳述によると、玄地被告は土田さんと共同経営していたホストクラブの経営権を譲渡されたが、土田さんに内装費の一部を支払わなければならなかった。

 男は21年5月ごろから、土田さんの運転手をやりながら土田さんが経営するキャバクラの従業員を務めていた。ところが、同年12月に客引きをしていて警視庁に検挙され、店が営業停止になったため、土田さんから店の改修費を請求されていたという。

 何より、玄地被告が経営権を譲られたホストクラブは、土田さんの姿が最後に確認されたコインパーキングから数件隣にあった。

 同課が任意で男に事情を聴いたところ、土田さんの携帯電話を捨てたことを認め、供述通りに檜原村の山中から携帯電話が見つかった。それが土田さんのものと確認されたため、同課は2人の逮捕に踏み切った。

 捜査関係者によると、男は土田さんの失踪当日にホストクラブに行ったことは認めたが、2人とも「土田さんには会っていない」と供述しているという。それなら、どうやって携帯電話を入手したのか。その疑問は解消されていない。

「西東京のカリスマ」…後輩には厳しい面も

「仕事に対してまじめで、女性客への気遣いがすごい。ホストという仕事がまさに天職だった」

 土田さんと20年以上の付き合いがある飲食店経営の男性はこう話す。

 知り合ったころの土田さんは数多くいるホストの1人に過ぎなかったが、徐々に頭角を現し、数年後には店舗の経営を任された。経営者としても手腕を発揮し、ホストクラブやキャバクラなど複数の店舗を手がけ、「西東京のカリスマ」と呼ぶ人もいた。

一方で、後輩らには厳しく当たることもあったという。別の知人男性は「売り上げにはうるさかった。土田さんから厳しくされ、辞めていったホストは数え切れない」と振り返る。

 この男性によると、玄地被告は地元のホスト関係者の間では、土田さんの後継者とみられていた。男性は「ホストを紹介する雑誌にメーンで載った土田さんの横に、玄地被告が小さく載っていた。『次はこの人が来る』というように紹介されていた」と話す。

 玄地被告は9月21日に開かれた初公判で、「関係ない」と起訴内容を全面的に否認した。第2回公判は11月7日で、男らが証人として出廷する予定だ。
八王子ホスト失踪事件 ホストクラブ経営、土田正道さん(当時43歳)が失踪した事件