「したたかさ」試される日本…TPP予断許さず

20130922-00000013-mai-000-2-viewワシントンで21日まで開かれた環太平洋経済連携協定(TPP)の首席交渉官会合は、年内の交渉妥結に向けて10月の閣僚・首脳会合のお膳立てをすることが目的だった。

 しかし、かえって歩み寄りの難しさも浮き彫りになるなど、交渉の行方は予断を許さない。

 ◆「政治決断」も

 「この課題は明日までに解決を」「こちらは来週までに」。首席交渉官会合は初日の18日から、時にはわずか30分で一つの分野を終えるなど、精力的に議論を進めた。ただし対立が少ない分野から取り上げていったため、後半になるにつれて進行は遅れ、予定の分野をこなし切れない日が続いた。

 例えば、難航分野の一つである「知的財産」を巡っては、特許権などの保護を強化したい米国と、新しい技術を安く導入したい新興国の対立は根深いままだ。交渉官の間では、年内の妥結を優先するなら交渉の範囲を見直し、確実に合意できるものに限るよう各国の首脳・閣僚に政治決断を求めざるを得ない、といった見方も浮上している。

 交渉筋が調整している10月の首脳会合の合意文書は、8月時点の素案ではTPPの「実質合意」という意欲的な表現を盛り込んだ。それが最近では「大きな節目(マイルストーン)」になったとの指摘にとどめる案がでている。10月の閣僚・首脳会合でどこまで実のある合意をまとめられるか、不透明感が強まっている。

 ◆焦る米国

 「もう長い間議論してきた。そろそろまとめよう」。首席交渉官会合2日目の19日、会場となった米通商代表部(USTR)の会議室に突然、米国の担当閣僚であるフロマン通商代表が姿を現し、こう呼びかけた。3年以上にわたる交渉に業を煮やし、妥結を急ぐ米国の本音だった。

 米国の政治は4年に1度の大統領選挙と、その折り返し点の中間選挙という、2年ごとの国政選挙を中心に回っている。来年行われる中間選挙では、すべての下院議員と上院議員の3分の1が改選される。

 政権与党が最も気にかけるのは、国民の政治への満足度に直結する雇用の動向だ。オバマ大統領は19日の演説で、「輸出が10億ドル(約990億円)増えるごとに米国内で5000人の雇用が生まれる」と述べ、輸出増の原動力としてTPPの妥結を急ぐ考えを強調した。

 ◆日本の戦略は

 しかし、米国が妥結を急げば急ぐほど、とりわけ米国と対立点の多い新興国などに足元をみられ、先延ばし戦術に出られたり、米国が妥協を迫られたりする可能性もある。

 米経済界からは、米政府が選挙前に形ばかりの「合意」を急ぐことへの警戒感も出始めている。首席交渉官会合の開催中には、米国の輸出関連産業などの団体が各国の交渉官に書簡を送り、「中身の濃い合意に向けた努力」を求めた。

 日本は今回、先進工業国として米国と共闘できる分野がある一方、国内の市場開放では米国から圧力を受けてもいる。米国内の事情も踏まえ、日本はどれだけしたたかに立ち回り、有利な成果を勝ち取ることができるかが問われる。