星野リゾート急成長の死角 「おもてなし」維持には人材確保が課題

20131121-00000500-biz_fsi-000-5-view星野リゾート(長野県軽井沢町)の拡大が止まらない。経営不振に陥った旅館を次々と傘下に収め、「おもてなし」を尽くした高級リゾートとしてよみがえらせる手法などにより、国内で34カ所の施設を運営するに至った。今後も国内外で積極展開する計画だ。7月には自社物件を組み込んだ不動産投資信託を東京証券取引所に上場。「日本の観光をやばくする」と鼻息が荒い星野佳路社長だが、一方で急速な成長の盲点も指摘され始めた。

「スタッフがきちんと動いていて、料理も温泉も楽しめた」。米カンザス州から初来日し、星野リゾートの温泉旅館「界 熱海」(静岡県熱海市)に泊まった退役軍人のリチャード・センフテンさん(68)と妻のペニーさん(60)は話す。

「界 熱海」は約160年の歴史を持つ老舗旅館を改装、昨年9月にオープンした。外国人観光客の誘致に力を入れており、地元の熱海芸妓(げいこ)の舞を紹介するほか、Wi−Fi(ワイファイ)を無料で全室に設置し、洋食にも対応。並行して英語サイトでの情報発信を行い、10月には国際学術団体の招聘(しょうへい)に成功した。いまや宿泊客の1割が外国人だ。

唐沢武彦支配人は「日本人のお客さまは週末や夏休みなどに集中する。海外のお客さまで他の期間を稼働させ、将来は比率を半々にしたい」と話す。「界」は星野リゾートが老舗旅館を改装する形で事業を拡大し、全国10カ所で展開。現在も新規の案件が進行中という。

一方、高価格帯の「星のや」は、星野社長が傾きかけた家業の温泉旅館を再建した「星のや軽井沢」を2005年に開業したのが始まり。「日本旅館の趣と世界基準のサービスの提供」をテーマに軽井沢、京都、竹富島(沖縄県)の3カ所で展開。14年にインドネシア・バリ島、15年には富士山の麓、16年には東京・大手町に進出する。

「日本の観光産業に、国内外の投資家が投資できる環境を作りたい」(星野社長)として、7月に上場した不動産投信は「界」と「星のや」にファミリー型リゾート施設「リゾナーレ」から6物件を組み込んだ「日本初の旅館ファンド」だ。

資産規模150億円と小額ながら3〜5年後にはさらに多くの国内の自社物件を組み入れ500億円に拡大する計画。価格は横ばい状況だが、「将来的に『星のや東京』が入ることを期待する取引が続いている」(市場関係者)。みずほ証券の石沢卓志チーフアナリストも「東京五輪の実現で、ホテル・宿泊施設関連の不動産投信に対する評価が上がる可能性は高い」と分析する。

ただ急拡大に、「運営やサービスの質の低下が起き始めている」(金融コンサルタント)との指摘も出てきた。星野リゾートが運営する全国34施設のうち、自社保有の物件は約半分で、残りは第三者が保有し運営だけを星野が手がけている。各施設とも上質なサービスが売り物とあって、人材確保と育成が最大の課題となっている。

人材は東京で一括採用しているが、現在は回数を年3回に増やした。中途採用も頻繁に行っている。星野社長自らが就職説明会で語るなど人材確保に躍起だが、「なお優秀な人材は足りない状況」(星野リゾート関係者)で、繁閑の差がある各施設間で人材を融通している。星野社長も「海外での事業展開も含め、優秀な人材の確保が課題」と危機感を示し、急成長にブレーキをかける必要性に迫られる場面もありそうだ。