耐震診断、揺れる温泉街 熱海も下呂も経営への打撃懸念

大きくて古い旅館やホテルに耐震診断を義務づけてから、今月で1年が経つ。耐震不足との結果が出れば、数億円かかることもある改修を迫られるかもしれない。経営が厳しい老舗温泉街は、難しい判断を迫られている。

相模灘を望む熱海温泉(静岡県熱海市)。海岸沿いから山あいにかけて、古い旅館が目につく。改正耐震改修促進法が昨年11月に施行され、市内の旅館、ホテル計6棟が診断義務化の対象となった。そのうち5棟で診断が進む。

 業者にとって、診断結果は重い。「耐震性がないとわかれば、宿泊客の安全を確保するため改修を迫られる」(熱海市建築住宅室)。改修費に加え、工事で長期休業をすれば従業員への補償も必要になる。

 改正法により、業者は診断結果を来年までに地元自治体に報告し、結果は公表される。公表されれば改修前に客が離れないか、業者の不安は尽きない。

 熱海温泉ホテル旅館協同組合の土屋基専務理事によると、改修費に3億円かかった旅館もあるという。「どこの旅館もぎりぎりの経営。長引いた不況で体力は弱まっている」と話す。

 金融機関の融資が滞ることも危ぶむ。耐震改修で柱を補強したり壁を厚くしたりすれば、営業面積が狭まりかねない。「商品価値を落とす融資を銀行がするとは思えない。国が融資制度の道筋をつくるべきだ」