背水の陣とも言われた日銀の追加緩和、その覚悟と弊害は?

日銀は10月31日、大方の予想を裏切り、追加緩和の実施に踏み切りました。ほとんどの市場関係者がこのタイミングでの緩和を予想していませんでしたから、為替市場では一気に円安が進み、株式市場では7年ぶりに、一時1万7000円台を突破する事態となりました。サプライズという意味ではまさに大成功だったのですが、一方で追加緩和の弊害を指摘する声も聞かれます。追加緩和にはどのようなデメリットがあるのでしょうか。

短期的なデメリット

 短期的なデメリットとしては、追加緩和というカードを切ってしまったことで、日銀にはこれ以上の手段が残されていないことが明確になってしまったという点があげられます。追加緩和を行う前は、追加緩和があるのかないのかを含めて、市場には様々な憶測が飛び交います。日銀側はこれをうまく利用して、実際には何もしていないのに、追加緩和を実施した場合と同じような効果を得ることも可能だったわけです。しかし本当に実施してしまうと、こうした心理作戦は使えないことになります。一部報道で「背水の陣」などと表現されているのはそのためです。

 日銀の責任問題が浮上しやすくなるというのも短期的なデメリットのひとつです。追加緩和を行っても物価目標が実現できなかった場合、日銀に対する責任問題が出てくる可能性があります。そうならなかったとしても、さらなる追加緩和を市場から求められることは十分に考えられ、そうなってしまうと対応が常に後手に回ってしまいます。

中期的なデメリット

 中期的なデメリットとしては、出口戦略への対応があります。量的緩和策は市場から国債などを買い入れ、市中にマネーを供給するというものです。しかし、この政策をいつまでも続けるわけにはいきません。米国は10月に量的緩和の終了を決定していますが、日銀もいつかはこの政策をストップし、正常な状態に戻す必要があります(これを出口戦略と呼びます)。米国経済は見事な回復を見せましたが、追加緩和を続けても日本経済が回復しなかった場合、いつまでたっても量的緩和策がやめられないというジレンマに陥る可能性があるわけです。

長期的なデメリット

 さらに長期的な面では、財政ファイナンスへの懸念があります。政府の国債を日銀が直接引き受けることは財政法で禁止されています(実際には、毎年一部の国債は例外的に直接引き受けが行われています)。これを無制限に行えば、財政や通貨に対する信任がなくなり、ハイパーインフレを引き起こすリスクがあるからです。

 量的緩和策では、一旦市場に出た国債を日銀が買っていますから、直接引き受けではありません。しかし、買い入れる国債の金額が膨れ上がるにつれて、日銀が日本政府の借金を肩代わりするような形に近づいていきます。現在、日本政府は約800兆円の国債を発行していますが、2014年末には日銀の国債保有残高が200兆円に達する見込みです。この金額が際限なく増えていくようだと、日本国債への信任が薄れ、国債価格が下落する可能性があります。そうなってしまうと、日銀には多額の含み損が発生してしまいます。

 こうしたデメリットがあることは、当然のことながら日銀はよく承知しています。それでも追加緩和に踏み切ったのは、物価目標を何としても実現するという日銀の強い意志の表れと考えられます。