イノシシ 冷凍庫に満杯 処分費用負担ずしり 先行き見えず狩猟者苦悩 福島県相馬市

東京電力福島第1原子力発電所事故に伴う出荷停止が続き、捕獲したイノシシの行き場がなく、相馬市では冷凍庫に入れて一時保管してしのいでいる。捕獲しても処分先がないためだ。狩猟税などコストも掛かることから狩猟者が減り、イノシシの生息数や生息域は広がり鳥獣被害は増加、狩猟者の負担は重くなるばかり。現場からは「この先、狩猟は続けられるのか。見通せない」などと切実な声が上がっている。

 冷凍庫を開けると、200頭以上のイノシシの死体がぎっしり詰め込まれていた。埋設地も焼却先もない。処分できないイノシシの山がそこにあった。事故前までは、肉を自家消費したり地域で販売したりしてきたイノシシだが、捕獲しても出口がない状況が続いている。

 相馬市の山で狩猟を終えた荒一信さん(67)は、黙々と捕獲したイノシシを冷凍庫に入れる。「いくら捕獲しても食えないし、処分先もないから報われない。狩猟をやめていく人の気持ちも分かるよ」

 もうすぐ冷凍庫は満杯になる。市の焼却施設に持ち込むには、チェーンソーで細かくイノシシを解体し、解凍しなければならない。重労働の上、人手も確保できない。「これじゃあ、狩猟をする人はどんどん減るばかりだ。どうしようもない」と狩猟者の木幡保さん(75)の表情も険しい。

 狩猟者減でイノシシが増え、地元農家からは「イノシシが田畑を荒らして営農できない。何とかしてくれ」と捕獲を求める声が相次いでいる。

 狩猟者の高野田鶴夫さん(74)は「せっかく野菜を植えても掘り返され、収穫時には無残な状況になっている。山に木を植えても荒らされて維持できない。事故前には考えられなかったことが起きている」と被害のむごさを説明する。

 あくまでも冷凍庫での保管は一時的な対策だ。公的な焼却施設でイノシシを受け入れるには、解体作業などが重労働で狩猟者の負担となるため、市ではイノシシの埋設地を探したり、ペット用の焼却施設に費用を払って対応を依頼したりと処分方法を模索する。捕獲に対する報奨金を上積みするなど対応を取るが、問題の解決につながっていない。

 市は「明確な処分方法を示せず本当に困っている。イノシシの生息数も農産物被害も大幅に増えているとの報告があり、自治体単独での対策には限界がある。国がもっと関わって処分方法を示し、鳥獣被害対策をしなければ、狩猟者数は回復しない」(農林水産課)と訴える。

 県は捕獲したイノシシを埋設か焼却するよう自治体に求めているが、「相馬市だけでなく県全域で狩猟者が減り、有害鳥獣の処分に困っている。改善策を模索しているが現時点で見いだせていない」(自然保護課)と困惑する。

 県猟友会の阿部多一会長は「現場レベルでできることをやっている。狩猟者は日々、地域のために農業のためにと踏ん張って捕獲に励んでいる」とし、早急な支援を求めている。