ニッセン、セブンの"お荷物"を脱せるか

大化けするどころか、足を引っ張る存在になっている。

 2013年12月にセブン&アイ・ホールディングスが買収した、通販大手ニッセンホールディングス。買収時には「大化けするような新しいビジネスの展開」(ニッセンの佐村信哉社長=当時)を見込んでいた両社だが、1年経ってもニッセンは低空飛行が続いている。

■  今期も56億円の営業赤字に

 2014年12月期決算では、売上高が前期比6.1%増の2083億円となった一方、営業損失は66億円と前期から倍増。最終赤字も85億円(前期は28億円)に膨らんだ。当然これは親会社であるセブンの決算にも影響。同社の2014年度第3四半期(2014年3〜11月期)では、通販事業で52億円の営業赤字を計上している。

 不振の"震源地"は主力の通販事業「ニッセン」にほかならない。消費増税の影響が長引く中、前期はカタログの発行回数を従来の5回から6回に拡大。利用者のニーズにきめ細かく対応しようとしたが、これが裏目に出た。たとえば、今回初めて8月に「初秋号」を投入、夏から秋にかけて着られる衣料品などを用意したが、9月に入ってから想定以上に気温の低い日が続いたため、薄手アイテムの販売が苦戦。9月末には「秋号」を出したものの、秋冬商戦には完全に出遅れた。

 同じ期のニッセン事業の売上高は1063億円と、前期比6.4%減少。一方、カタログ発行費用が膨らんだことで、経常損失は73億円となった(前期は26億円の赤字、営業利益は非開示)。受注人数の減少も止まらず、422万人と前年比8%減少、稼働単価もじりじりと減り続けている。

 こうした中、起死回生に向け、2014年12月には社長を交代。ネット通販事業を拡大させた実績を持つ、市場信行氏が新たに社長に就いた。それでも急回復は見込めない。同社の計画によると、2015年12月期の売上高は1776億円と14.8%減少。営業損失も56億円と膨大な赤字が続く。

もちろん、手を打たないわけではない。

 ニッセン事業では今期、カタログの発行時期を見直すほか、ページ数も減らし、よりネットシフトを加速させる。ワーキングマザーとファミリー層にターゲットを絞り、取扱商品も大幅に見直し、これまでの安売り路線から付加価値路線に転換。価格も徐々に上げる計画だ。加えて商品数も大幅に減らすとしている。こうした一連の施策により、尻上がりに利益率は改善し、下期は「単月でもいいので黒字化したい」(ニッセン)考えだ。

 とはいえ、先行きは楽観できない。ファストファッションやネット通販が台頭し、利用者が欲しいものを好きなときに買えるご時世にあって、季節が変わる前にカタログを投入し、季節を"先取り"した商品を買わせるというビジネスモデルは、過渡期を迎えている。カタログ通販で単品ごとの需要予測を行うというのが同社の強みだが、ネット時代になって需要予測はより難しくなっているのではないか。

■  セブンとの協業の中身

 また、商品についても「ニッセンでしか手に入らない」など、よほど特徴的な商品をそろえるか、ブランド力を強化しない限り、移り気な消費者の心を引きつけるのは容易でない。ニッセンは「高付加価値商品に力を入れる」としているが、消費増税の影響で消費者マインドが冷え込んでいる中、多くの企業がニッセンと同じ方向性を目指すとしており、「高付加価値」の中身も求められるようになる。

 こうした中でセブンは、ニッセンの救世主になるはずだった。ところが、少なくともニッセンの決算の数字上、まったく相乗効果が見られないのはなぜか。

 セブンが掲げる「オムニチャネル戦略」のもと、目下、両社は協業を進めている。すでにニッセンのカタログをセブンの店舗に配布しているほか、ニッセンの一部商品を「セブンネットショッピング」で販売。2014年10月には共同で有料の女性向けファッションカタログを制作・販売している。また、今後はセブンの店舗で、ニッセンで買った商品を受け取れるようにするサービスも始める予定だ。

が、協業を促進するうえで、一つネックがある。それは、ニッセンがカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と提携し、2014年4月から「Tポイント」を導入していることだ。セブンも自社の電子マネー「nanaco(ナナコ)」を展開しており、セブンネットなどでの買い物でポイントを貯めることができる。

 本来であれば、セブンとニッセンでIDを共有化したり、ニッセンで買い物をした際にnanacoポイントが貯められたりすれば、それなりの相乗効果が見込めるのだが、両社はこれをしていない。セブン側によると、ポイントを加算することなどは契約違反には当たらないようだが、CCC側に配慮している可能性もある。CCCとの契約期間について、セブン、ニッセンとも明らかにしないが、仮に契約を破棄した場合、違約金が発生することは避けられない。

■ 顧客情報共有できないワケ

 また、買収直後は両社で顧客情報などを共有することによる、顧客基盤の拡大も期待されていた。が、双方の個人情報規約などが異なるため、それぞれの顧客に確認をとならければ、情報を共有することもできないようだ。ニッセン側はIDやポイント、顧客情報の共有などについて、「将来的には実施することを検討している」としているが、実現にはしばらく時間がかかるだろう。

 もっとも、ニッセンは「(顧客情報の共有などは)ニッセンの業績が回復してからの話。セブンの力を借りるのでなく、自社で事業を再建しなければならない」(ニッセン)、とのスタンスだ。一方、セブン側は資本提携当初から、ニッセンのカタログで培ってきた通販事業のノウハウを高く評価しており、これをセブンネットなどに生かすことができるとしている。

 確かにこうした目に見えない部分で、相乗効果が表われてきているかもしれないが、セブンがこのままニッセンを”放置”し、自力再建に委ねるようであれば、通販事業がセブングループ全体の足を引っ張り続けかねない。

 セブンは2014年3月、ニッセンにセブン-イレブン・ジャパンの執行役員でもある永松文彦氏を、副社長として送り込んだ。「大化けする」との高い目標があるのなら、早急により密接な連携を進めることが必要だろう。