TPP「時間切れ」迫る 9日から首席会合 TPA法案提出遅れで進展望めず

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉の「時間切れ」が迫ってきた。日米など参加12カ国の首席交渉官会合が9日、米ハワイで始まり、15日までの日程で難航分野の着地点を探る。だが、米国では交渉の合意に不可欠とされる大統領貿易促進権限(TPA)法案の提出が4月以降にずれ込む見通しで、日本政府内では合意の期限と目される「5〜6月」の決着を危ぶむ声も出始めている。(本田誠)

 ■「早期妥結の前提」

 「漂流の可能性がかなり出てきている」。日本のある交渉筋はこう指摘し、表情を曇らせる。

 今回の会合では、米国と新興国の対立が解消しない知的財産や国有企業改革といった難航分野を中心に協議。2国間の関税協議や分野別の担当交渉官による作業部会も開く予定だ。交渉全体の大筋合意の舞台となる閣僚会合の開催につなげられるかが焦点となる。ただ、現状では協議の大幅な進展は望めそうになく、閣僚会合の早期開催は難しいとの見方が多い。

 米議会で通商交渉の権限を大統領に一任するTPA法案の提出が遅れ、審議入りが議会の休暇明けとなる4月中旬以降になる見通しとなったためだ。TPA法が成立しなければ、議会の反対で合意内容が覆されかねないとの理由で、TPP交渉では、譲歩案の提示を手控えている参加国もある。甘利明TPP担当相も「一刻も早く成立させることが、TPP早期妥結の前提となる」と強調する。

 ■合意期限「5〜6月」

 TPP交渉は年明け以降、米オバマ政権が積極姿勢を強め、合意の機運が盛り上がりをみせていた。TPA法案も当初は3月中の可決が見込まれ、日本政府内では「3月にも12カ国の閣僚会合を開いて交渉全体の大筋合意にこぎ着ける」との期待も高まっていた。

 ところが、実際にはオバマ政権の法案提出に向けた与野党への根回しが十分にできていない状況が浮き彫りとなった格好。提出されても審議に最低4週間はかかることから、交渉筋は大筋合意も「5月以降にずれ込むとみるのが現実的」と指摘する。

 日本の政府高官によると、米国は来年になると次期大統領選に突入するため、米議会がTPP関連法案の採決に時間を割けるのは「ぎりぎり来年2月ごろまで」と共和党関係者から伝えられているという。関連法案の審議にかけられるのは90日で、交渉の合意から法案の議会提出までに必要な手続きには5カ月かかるとされる。

 オバマ政権のもとで関連法を成立させるには、逆算すると「今年5〜6月」が合意期限となるわけだ。それ以降に合意しても、関連法案の採決は新政権の発足後に持ち越され、次期大統領次第では交渉が「白紙」に戻る懸念も否定できない。5〜6月までに合意できなければ、交渉は中断を余儀なくされそうだ。

 ■首相訪米前に「決着」

 日本はTPA法の成立を待たずに、日本の重要農産品の関税などをめぐる日米協議を前進させ、安倍晋三首相が訪米する4月下旬からの大型連休前には決着させたい考え。その上で、TPA法の早期成立を前提に12カ国の閣僚会合を開き、交渉全体の大筋合意に持ち込むシナリオを描く。

 しかし、東京都内で今月6日まで開かれた日米の事務レベル協議は「難しい問題が残ると同時に、新たに認識された問題が出てきている」(大江博首席交渉官代理)という状況で、TPA法がいつ成立するかもメドが付かない。交渉はこれまでも、たびたび漂流の可能性が指摘されたが、いよいよ懸念が現実味を増している。