小型テレビ“活況”で品薄懸念 デジアナ変換終了 各社、大型へのシフト苦戦

テレビ販売が“活況”だ。とはいっても20型未満の小型テレビ限定の話。例年の進入学および新社会人需要に加え、今年は3月末にピークを迎えるデジアナ変換サービス終了による特需が発生しているからだ。今後、小型テレビが品薄になる懸念も出てきた。

 ◆慌てて購入目立つ

 調査会社のBCNの調べによると、3月1〜15日までの液晶テレビの販売台数は、前年同期比20.4%増。久しぶりにテレビ市場が活況を呈し、高い伸びをみせている。

 だが、テレビメーカー各社が力を注ぐ40型以上のテレビは前年割れの実績。特に50型以上は7.5%減と落ち込みが大きい。それに対して、20型未満の液晶テレビは、同73.5%増と大幅な伸びとなっている。

 「例年3〜4月にかけては1人暮らしを始める学生、社会人が増加することから小型テレビの販売数量は増加傾向にあるが、今年は1カ月早く、2月から小型テレビの販売が増加している」(業界関係者)

 BCNの調査でも、今年2月の20型未満の液晶テレビの販売台数は、同80.0%増という高い伸び。液晶テレビ全体における20型未満の販売構成比も前年同月には10.0%だったものが、今年2月は14.5%にまで上昇している。その背景には、デジアナ変換サービスの終了という、今年限りの特別な要素が作用している。

 デジアナ変換サービスは、2011年7月のアナログ放送停波に伴い、地上デジタル放送への移行時の混乱を避けるため、総務省からの要請によって、ケーブルテレビ事業者が提供してきた経過措置ともいえるサービス。ケーブルテレビの視聴者を対象に、地デジ放送をアナログ方式に変換し、ブラウン管テレビや、アナログ対応薄型テレビでも、そのままテレビがみられるサービスだ。

 サービス開始当初から、15年3月にサービスを終了することを発表していたが、サービス終了時期はケーブルテレビ局が決めることができ、終了日は分散している。

 最大手のジュピターテレコムでは、1月29日に、茨城県の土浦ケーブルテレビでサービスを終了したのに続き、2月中に16エリアでサービスを終了。3月末を待たずにサービスを終了する例も少なくない。

 全国的にみると、北海道、神奈川、福井、三重、奈良、徳島、福岡の7道県では、4月に入ってからサービスを終了するケーブルテレビ局が多い。これは、公職選挙法で選挙期間中の放送条件の変更が禁止されており、知事選挙が行われるこれらの地域では、4月にサービス終了がずれ込んでいる。なお、鳥取、島根、大分でも知事選が行われるが、これらの県では、選挙戦開始前にサービスを終了している。

 先行してサービスを終了した地域では、サービス終了直後に小型テレビの販売が急増するという結果がみられており、慌てて購入する例が目立つという。

 「デジアナ変換サービスを利用していた世帯では、テレビ画面は小さくてもいいとする高齢者世帯や、2台目以降の利用であるために小型テレビでいいという場合が多い。地デジ移行時には大画面化を訴求したが、今回は小型テレビの訴求が不可欠」という声もあがる。

 このためパナソニックやシャープは、小型テレビのラインアップを強化。量販店でも、小型テレビの展示スペースを拡大し、在庫確保に奔走している。東京・有楽町のビックカメラ有楽町店では、2階テレビ売り場の最前列に16〜24型までの小型テレビを展示している。

 ◆大型へのシフト苦戦

 業界の試算によると、デジアナ変換サービスの終了に伴い、約150万台のテレビ需要が創出されるという。

 デジアナ変換サービスを利用している世帯数は約105万世帯。そのうち半分の世帯でテレビを買い換えるとしているほか、2台目以降のテレビでデジアナ変換サービスを利用している約300万世帯で、100万台程度のテレビ需要が創出されると予想している。

 2010年のピーク時には2500万台規模の年間出荷台数を誇った国内テレビ市場だが、現時点ではその反動もあって年間600万台規模。150万台といっても、3カ月分の需要が創出されるとあって、小型テレビを切り口に、需要獲得に動くメーカーや量販店が相次いでいる。

 だが、こうしたなかで、業界内で懸念されているのが、小型テレビの品薄だ。

 デジアナ変換サービスの終了に伴って、小型テレビの需要が例年以上に旺盛であるのに加えて、3月後半から4月にかけての単身世帯の需要が増加。さらに、デジアナ変換サービス終了時の移行措置のひとつとなる地デジチューナーが、中核部品の生産終了を理由に、潤沢な量が供給できないことが分かっており、この分も小型テレビの需要増に拍車をかけるとみられている。さらに、店舗やホテルなどの各種施設で導入されている小型テレビも、設置スペースの関係から、地デジ対応の小型テレビに置き換える一括需要が見込まれている。

 家電メーカー各社としては単価が高い大型テレビへとシフトさせたいところ。だが、昨今の円安で、海外生産が多いテレビは価格が上昇傾向にあり、需要を取り込みにくい環境にある。

 久しぶりにテレビ市場が活況ぶりをみせているとはいえ、メーカーや量販店は、単価が低い小型テレビが中心で、収益増へのインパクトは今ひとつ。しかもそれが品薄になるという頭の痛い問題を抱えている。