ウソの「強姦証言」で服役3年半 「無実の男性」が受けた損害はどう補償されるのか

服役3年目に「あなたは無罪でした」と言われたら―—。強姦罪などで懲役12年の刑が確定していた男性の「再審請求」の裁判で、被害者とされた女性が「事件はウソだった」とかつての証言を翻したため、大阪地裁は2月下旬、再審開始を決定した。大阪地裁は「無罪を言い渡すべき新証拠がある」としており、今後の再審公判で無罪判決が出る見通しだ。

報道によると、男性は2004年と2008年に大阪市内で同じ女性に性的暴行やわいせつ行為をしたとして、強姦と強制わいせつの容疑で逮捕・起訴された。男性は捜査段階から一貫して否認していたが、2011年に懲役12年の実刑判決が確定した。有罪の決め手は、被害者と目撃者の証言だった。

男性は服役中の2014年9月、大阪地裁に再審を請求。その裁判で、被害者とされていた女性と目撃者が、過去の証言は虚偽だったと認めたのだ。服役して3年半となる昨年11月に大阪地検が刑の執行を停止し、男性は釈放された。

このニュースに対して、ネットでは「どうやって名誉回復するんだよ」「この男性の人生、誰が補償すんの?」という反応が数多くみられた。無実の罪によって、自由と時間を奪われた男性は、なんらかの補償を受けることができるのだろうか。刑事裁判にくわしい萩原猛弁護士に聞いた。

●補償金の範囲は「1日1000円〜1万2500円」

「起訴され、裁判にかけられた者が、審理の結果、無罪となる場合があります。そのようなケースについて、憲法では『何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる』と定めています」

萩原弁護士はそう指摘する。具体的には、どんな補償がされるのだろうか。

「この憲法の規定を受けて、刑事補償法は、逮捕・勾留・服役 1日につき1000円以上 1万2500円以下の範囲で『補償金』を支払う旨を規定しています。さらに、無罪判決が確定した者には、一定の裁判費用も補償されます。

この規定は、有罪判決が確定して刑務所で服役した者が、再審によって無罪になった場合にも、当然適用があります」

今回のケースでも、再審公判で男性の無罪が認められれば、一定の補償金の交付を受けられるようだ。

●「国家賠償」はハードルが高い

「しかし、刑事補償の補償額は極めて不十分ですし、逮捕・勾留されていない在宅事件の場合は、無罪でも刑事補償がありません」

萩原弁護士はこのように語る。刑事補償以外に、受けられる補償はないのだろうか?

「刑事補償以外では『国家賠償』が考えられます。国家賠償法では、公務員の違法行為によって損害を受けた場合に、国や公共団体がその損害を賠償することを規定しています。ただ、国家賠償によって賠償金を獲得することは、簡単ではありません」

なぜ、難しいのだろうか?

「犯罪の疑いを受けた者が、逮捕や勾留といった不利益を受けるのは、社会の治安を守るうえで、やむを得ない面もあります。

こうした事情があるため、国家賠償請求が認められるためには、賠償金を請求する冤罪被害者のほうで、警察官・検察官・裁判官などの公務員が、刑事手続きの進行中に、その時点において不合理な判断をしたとか、自白の強要などの違法行為を行ったということを証明しなければならないのです」

今回の事件では、被害者の証言と矛盾する内容の「診療記録」が公判当時から存在していたのに、検察側が証拠として入手していなかったと報じられている。これを理由にして、国家賠償を請求することはできるだろうか?

「報道によれば、その診療記録は『男性が事件に関与していないことを強く裏付ける証拠』とされているようです。そのような重大な証拠の存在がうかがわれるのに、捜査機関が十分な捜査をしないで、証拠保全に落ち度があったということであれば、国家賠償請求が認められる可能性はあるでしょう」