「すき家」デフレの成功モデル崩壊 ゼンショーHD、人手確保へ賃上げ

過重労働が問題となった牛丼店「すき家」の第三者委員会は、8日公表した職場改善に向けた報告書で残業時間の削減に一層の努力を求めた。“ブラック企業”の汚名返上のため、親会社ゼンショーホールディングス(HD)は深夜の1人勤務体制の解消を進める考えだ。ただ複数勤務を支える人手は集まらず深夜営業の全面再開は遅れっぱなし。同社は人手確保のための賃上げに乗り出しており、人件費抑制で価格を抑えるデフレの成功モデルは崩壊しつつある。

 「過重労働のような緊急事態は避けられた。しかし、やることはある」。同日午前、都内で発表会見に臨んだ第三者委員会の白井克彦委員長はこう述べ、一層の取り組みを促した。

 報告書では、昨年2月時点で月間の時間外労働が100時間を超えた社員と店員が今年2月はいずれもゼロになったと指摘。昨年3月には109時間あった社員の月間平均残業時間も昨年10月以降、法定の45時間を下回ったことも示した。

 一方で、60時間以上の残業をしている社員が9%に上ることなども指摘。「引き続き対応の努力をすべきである」とした。報告書を受けて会見したゼンショーHDの小川賢太郎会長兼社長は「まだまだ改善は途上にある」と述べ、今後も努力していく考えを示した。

 取り組むべきは、過重労働の元凶とされる深夜時間帯の「ワンオペ」を廃止し複数の勤務体制とすること。1人を長時間働かせて人件費を抑えるビジネスモデルは商品価格の引き下げにつながり、同社を「デフレの勝ち組」としてきた。昨年高まった「ブラック」批判を受け、同社は昨年8月、ワンオペ廃止を打ち出した。

 しかし人手が集まらず、昨年10月からは全店舗の約6割に当たる1254店舗で深夜営業を中止。その後順次、再開を始めたが、人繰りがつかず進捗(しんちょく)は遅れている。すき家本部の興津龍太郎社長は8日の会見で、当初6月めどとしていた全面再開を9月に後ずれさせると発表した。

 人手を集めるため、ゼンショーHDは人件費を上げ始めている。2015年春闘では、正社員のベースアップ(ベア)やパート・アルバイトの時給引き上げを決定。その原資も見込み、今月中旬からは牛丼並盛291円を350円に値上げする。

 景気回復を背景に、ただでさえ外食産業は人手不足だ。ゼンショーはさらなる待遇改善に踏み切らざるを得ず、「デフレの象徴といわれる牛丼も値上がりしていかざるを得ないだろう」との声も上がっている。