続出する"お粗末IPO"、問題の本質はどこに

明るい兆しを見せていたIPO(株式新規公開)市場の風向きが、ここに来て変わりつつある。「最悪ですよ、本当にありえない」――。こう憤るのは、ある大和証券の法人営業社員だ。

怒りの矛先は、スマートフォンゲーム会社gumiをめぐって2014年初めに主幹事証券会社の座を大和から奪取した、野村証券に向けられている。主幹事は有価証券の募集・売り出しで中心的役割を果たし、それにより手数料を得ている。

■ 取引所は審査の強化を要請

 gumiは同年12月に東京証券取引所1部へ直接上場したが、わずか2カ月半で業績予想を黒字から赤字へ下方修正。投資家の失望を買い、株価は急落した。

 その後も韓国子会社での横領発覚や希望退職者の募集など迷走が続く。これら一連の事態に対し、野村ホールディングスは「個別の案件についてはコメントを差し控える」と口をつぐむ。

 東証も事態を重く受け止めている。3月31日に「最近の新規公開を巡る問題と対応について」との声明を発表。引受証券会社や監査法人にも上場審査の強化などを要請した。

 東証を傘下に持つ日本取引所グループの斉藤惇CEO(最高経営責任者)は、同日の定例会見で「投資家の信頼を損ないかねない最近のIPOは看過できない。3カ月で業績予想を黒字から赤字にしてしまうなんて経営者としてありえない」などと言及した。

前出の大和社員はこう付け加える。「せっかく盛り上がってきたIPO市場が冷や水を浴びせられてしまった」。

 IPO件数は2009年を底に復調傾向をたどってきた。だが、大手ベンチャーキャピタル(VC)幹部は「gumiの一件以降、証券取引所の審査が厳しくなっている。引受証券会社の審査に通っても、その後に取引所からハネられるケースも出ている」と語る。

 あるベンチャー経営者は「VCに資金調達を断られるようになった。雰囲気が変わってきた」と漏らす。

 引受証券会社を監督する金融庁も、「われわれの認識も日本取引所グループと基本的に同じだ。引受証券会社には、(有価証券の)発行会社に対し、財務状況や経営成績を中心に、より適切な審査を行っていくことが求められる」としている。

■ 不祥事で創業者が辞任する企業も

 お粗末なIPOの類似例はほかにもある。アサイードリンクなどを販売するフルッタフルッタ(2014年12月上場)は、上場後2カ月で業績を下方修正。直後にCFO(最高財務責任者)が「一身上の都合」で辞任している。

 大手でも、ソニー、東芝、日立製作所の中小型液晶ディスプレー事業を統合したジャパンディスプレイが、2014年3月の上場以降、2度の下方修正を行った。

 架空取引で引責辞任に追い込まれたケースもある。2013年10月に上場した、省エネ管理や電源開発などを展開するエナリスは翌2014年、会計処理に疑義が発生。同年12月に創業者の池田元英氏が社長を辞任した。

 婚礼情報サイトを運営するみんなのウェディング(2014年3月上場)は、同年11月に創業者で社長兼CEO(当時)の飯尾慶介氏が売り上げにかかわる入金を個人資金から拠出していたことが判明。辞任に追い込まれた。

 いずれも、直近の株価は上場時の公開価格や初値を大きく下回っている。すなわち、上場すること自体を目的とする「上場ゴール」との批判を免れない結果となっている。

東証の林謙太郎・上場部統括課長は「エナリスの事案があってから、取引所として対処が必要との意識が生じた。3月31日に出した声明は、gumiだけを問題視しているわけではない」と、市場全体に広がる“緩み”に危機感を持つ。

 こうした市場への背任行為ともいえる事例に、投資家もいらだちを隠せないでいる。

 「これは予想の粉飾だ」。レオス・キャピタルワークスの藤野英人取締役は、上場直後の業績下方修正や架空取引をこう断ずる。「発行会社は業績予想を達成できると思い込んでいても、その前提が強気でありすぎれば、粉飾と同じ。VCから集めたカネで過度に広告宣伝に依存しているのもよくない」と、ベンチャー経営者が実力を実態以上に高く見せようとしている風潮に警鐘を鳴らす。

 前出とは別のVC幹部は「今は必要以上にベンチャーにカネが集まる。が、テレビCMに使っているだけで、資金の供給量にふさわしい起業家はまだ少ない」と語る。

■ IPOへの関心は高止まりか

 では、今後のIPO市場はどうなるのか。投資情報サイト「東京IPO」の西堀敬・編集長は「今年のIPO件数は前年を確実に超えて、80〜90件まで増える」と見通す。今秋には超大型銘柄である日本郵政の上場も控えており、IPOに対する関心は当面高止まりしそうだ。

 とはいえ、「4月末に上場を予定するスマホニュースアプリのGunosyのように、企業体として小柄で、業績見通しが不安な会社もある」(同)とも指摘。先行きを楽観視してはいない。

 安倍晋三政権が進める成長戦略でも、ベンチャー支援は政策の柱だ。第2のgumiが生まれぬよう、発行会社だけでなく、関係者それぞれの自覚が求められている。