四輪駆動車 10年ぶりに発売されたランクル70に乗ってみた

トヨタ自動車が期間限定で10年ぶりに再発売した四輪駆動車「ランドクルーザー70(ランクル70)」が人気を集めている。未舗装地や雪道など悪路の走行に適した走破性や耐久性を重視したデザインが特徴だ。根強いファンの要望に応えて昨年8月末の再発売したところ1カ月で目標の月間200台を大きく上回る同3600台の受注が集中し、現在も納車待ちが続いているほどだ。本格的なオフロード走行を楽しめるこの車に試乗した。

◇世界100カ国で販売

ランクル70は約30年前の1984年に登場し、国内をはじめとして中東やアフリカ、オーストラリアなど世界約100カ国で販売されており、これまでの累計販売数は130万台以上にのぼるロングセラーだ。国内では、排ガス規制の強化を機に販売を終了していた。今回再発売したのは過去にも販売していた「バン」(360万円)と後部に荷台のある「ピックアップ」(350万円)の2車種だ。

◇AT限定免許では運転不可

このうち試乗したのは5人乗りのバンタイプだ。全長4.8メートルと車体は大きく、大人5人が乗っても十分余裕がある。エンジンは、同じ四輪駆動車の「ランドクルーザープラド」や「FJクルーザー」で使われているV型6気筒4リットルのものが搭載されている。音や振動が気になるが、低回転でのトルクの粘り強さが十分あるため操縦しやすいのが特徴だ。

車高は1.92メートルと高く視界はいいが、運転席は高く乗り降りは難がある。グリップを頼りによじ登るような感覚で、女性や年配者にとって厳しいだろう。車内は必要最小限度の装備しかなく、エアコンも自動ではない。豪華な装備が当たり前になっている現在の乗用車に比べたら、シンプルな作りが目立つ車だ。今回販売された2車種とも変速機はマニュアル変速機(MT)だけで、オートマチック(AT)車の運転に限られるAT限定免許では運転できないので注意すべきだ。

◇日本アルプス周辺の山道を走る

オフロード走行に向かったのは、長野県飯田市。3000メートル級の山々が連なる南アルプスと中央アルプスに挟まれた伊那谷の南部に位置し、周りには四輪駆動車が性能を試せるような未舗装の山道があちこちにある場所だ。ここで、山道を走ってランドクルーザー70の走りを試してみた。

手始めに向かったのは、標高798メートルの水晶山。登り口から未舗装の山道が数キロにわたって続く山道だ。試乗当日の朝からはあいにく雨が降り、地面はぬかるみ、急斜面もあるため、車の走破力を試すには絶好の条件だった。

◇本格的なパートタイムの四駆

登り口から数百メートルまでは傾斜が緩やかなため、通常運転で使う後輪駆動で走ったが、傾斜がきつくなるとたびたび後輪が空回りして、車が左右に振られ始めた。

ランクル70の四輪駆動システムは常に四輪駆動になっているフルタイム方式ではなく、本格的なオフロード四輪駆動車が採用する後輪駆動と四輪駆動を使い分けるパートタイム方式。後輪駆動で車が安定して登っていくのが難しいと感じ始めた時、変速機のレバーを操作して四輪駆動に切り替え、アクセルを踏んだ。すると、泥を巻き上げながらも、安定して山道を登り始めた。さすがにオフロード走行性能は高い。大きな段差を乗り越え、人が息を切らして登るような急勾配の山道も難なく登っていった。

◇急斜面を縫う林道を走る

次に向かったのは中央アルプス南部の標高1100メートルに残された江戸時代の宿場の町並みが残る旧大平宿に向かう鳩打林道だ。飯田市の市街地から車がやっと1台ほど走ることができる細い山道が10キロほど続く林道だ。

砂が混じってスリップしやすい路面に、ところどころに大きな落石が散らばる路面もしっかりとタイヤがとらえて走る。数キロ続く上り坂を登り切り、峠にあるトンネルを抜けると目の前に飛び込んできたのは、100メートル以上も下に流れる渓流と急斜面を縫うように続く林道だった。

雨のため道路のあちこちに水たまりや水が流れて路肩が崩れている。ガードレールのない道を絶壁を横目に見ながらハンドルを握った。狭いカーブが続き、路面も悪いにもかかわらず、ぬかるみにタイヤがはまり込んだり、段差を越えられないようなこともなく、ランクル70は目的地の旧大平宿までスムースに進んだ。

◇燃費は5キロ強、経済性には難

オフロード性能の高さの一方で、基本設計が30年以上前とあってさすがに古さを感じさせる部分もある。急ブレーキ時のハンドル操作を可能にするABS(アンチロック・ブレーキ・システム)は付いているが、VSC(横滑り防止装置)といった多くの乗用車が標準装備している電子制御機器は付いていない。板バネを使うなどサスペンションの方式も古いためか、高速道路などでの高速走行に不安定さを感じた。また、燃料はレギュラーガソリンよりも値段が高いハイオクガソリン仕様だ。その上、試乗した約600キロでの燃費は1リットル当たり5キロ強。カタログ上でも6.6キロ(JC08モード)と燃費が悪い。

◇趣味のための車

ランドクルーザー70は、低燃費や快適性を追求している現代の車作りとは方向性が全く違う車だ。道路網の整備が進んでいない開発途上国で30年も広く使われてきたのは、道なき道を走る走破性と故障しにくいシンプルで頑丈な四輪駆動車本来の性能を追求してきたからだろう。経済性や乗り心地や快適性よりも走ることを楽しむための趣味の車として選ぶならば極上の一台と言えそうだ。