マイナンバー制度、3兆円の巨大市場 民間向けシステム開発にしのぎ

来年1月のマイナンバー制度導入をにらみ、対応が遅れている民間企業向けシステムの改修など、関連ビジネスが拡大しそうだ。官民合わせて3兆円ともいわれる巨大市場。政府も成長戦略の一環として、企業が個人情報をビジネスに利用しやすくする環境を整えるとともに、罰則強化で不正利用を防ぐ法改正に乗り出した。個人のプライバシー保護が整備されれば、商機がさらに広がる可能性を秘めている。

 NTTデータが3月10日、東京都内の本社で公開した「個人番号収集代行サービス」(仮称)の実証実験。同サービスは顧客の「個人番号」(国民一人一人に割り当てられる12桁の番号)を収集しなければならない金融機関向けに開発。郵送だけでなくスマートフォン、タブレット端末でも登録できるため、紙や人件費などを削減できる。

 社員ら約110人が個人番号に見立てた保険証をスマホのアプリで読み取ると、モニター画面に番号が表示された。続いて運転免許証を読み取り、本人確認の作業が終了。わずか1分程度で手続きが済んだ。

 同社のオープンイノベーション事業創発室の花谷昌弘課長は「事後のアンケートでは、作業が『スムーズだった』『とてもスムーズだった』と答えた割合が約95%に達し、一般の方にもおおむね受け入れられるのでは」と手応えを感じている。

 金融機関だけでなく、一般企業にとっても、制度導入後は社員の個人番号を源泉徴収票などに記載する必要があり、システム改修を迫られる。個人番号を扱う際には、厳格な事務作業や安全管理も要求され、事務量の増大が予想される。

 ただ、内閣府が実施した制度の認知度調査では、「内容まで知っていた」と回答した人は、28.3%にとどまり、制度対応が遅れている実態が浮き彫りになった。ICT(情報通信技術)各社は、商機とみてシステム開発にしのぎを削っている。

 富士通マーケティングは7月から、顧客企業の人事給与システムと連携し、個人番号の申請・収集・保管および税務署などへの申告帳票の出力を行うシステムの提供を始める。既存の人事給与システムにマイナンバー制度対応のシステムを外付けするだけでよく、短期間、低価格で対応できる。富士通はグループ全体の官民合わせたマイナンバー関連ビジネスの売り上げ目標を2年間で300億円に設定。担当者は「セキュリティーとコストとの兼ね合いもある。顧客企業には効率的で無駄のない制度対応を勧めたい」と話す。

 また、キヤノンマーケティングジャパン子会社のキヤノンシステムアンドサポートは3月下旬、中小企業向けのセキュリティーシステムを発売。新サービスでは、指紋静脈による認証やログイン情報の管理などを組み合わせており、外部からの不正アクセスの防止やデータの盗難対策を強化した。NECも2014〜16年度の関連市場を3000億円と見込み、専門チームを発足させて受注に力を入れている。

 一方、企業が情報漏洩(ろうえい)を防ぐには個人番号の記載された書類の管理や、業者への破棄の委託などが考えられる。個人情報の漏洩経路としては「紙」が最も多く、NPO法人日本ネットワークセキュリティ協会(東京都港区)がまとめた13年の媒体別の個人情報漏洩件数によると、紙が941件と全体の67.7%を占めた。企業が情報漏洩防止に頭を悩ませているインターネットは126件(9.1%)、電子メールは119件(8.6%)だ。

 ここに新たな商機を見いだそうとしているのが事務機メーカーのサカエ(同)だ。同社が4月16日に発売したオフィス向けシュレッダー「シュレッドギア 極美(kiwami) F6」で細断した1片の大きさは、0.7×3.5ミリで世界でも最小クラスだ。マイナンバー制度に関するガイドラインによると、個人番号などが記載された書類を破棄する場合、「焼却または溶解などの復元不可能な手段を採用する」と例示されている。近年、細断片をコンピューターで拡大し、文書を復元する解析技術が進歩しているが、同シュレッダーは「マイナンバー制度で紙情報破棄の条件となっている、復元できないレベルでの細断が実現できる」(同社)。

 国内の事務向けシュレッダー市場は年間約100億円あり、同社の松本弘一社長は「マイナンバー制度の対応が本格化すれば市場が倍になる」とみる。マイナンバー制度が成熟すれば、商機はさらに広がる。今国会で審議されているマイナンバー法の改正案が可決すれば、18年からペイオフ(金融機関の破綻時に預金払戻保証額を元本1000万円とその利子までとする措置)のときの口座合算や、予防接種などの履歴を転職先の健康保険組合や転居先の自治体に引き継げるなど、利用範囲が拡大される。国は今後、介護や戸籍、旅券など、公共性の高い分野でも個人番号とサービスを結びつけることを検討する。

 一方、消費者の不安を解消するため、不正行為を処罰する「データベース提供罪」の新設などが個人情報保護法の改正案に盛り込まれた。政府が法整備を進めることで、国民の制度への信頼が高まれば、民間による個人番号の利用は活発になるはずだ。