トヨタ、「意志ある踊り場」の先に何を見る?

「意志ある踊り場から、まさに実行する段階に入った」。トヨタ自動車の豊田章男社長は、5月8日に開いた決算発表会見の場でこう宣言した。

トヨタはVWグループに抜かれてしまったのか

 ちょうど1年前、豊田社長は2014年度を「意志ある踊り場」と表現。量を追わず、質を高め、将来の成長に向けた足場固めを優先する方針を打ち出した。

 そうした中で、北米での本社機能の移転・統合やグループの部品会社を含めた事業再編に着手。今年4月には3年間凍結するとしていた新工場建設を解除し、メキシコ新工場や中国の新ライン建設を発表するなど、次々と攻めの施策を打ち出してきた。

■ 挑戦しなければ成長は止まる

 踊り場を経て、トヨタがどこへ向かうのか――。決算発表を前にして、豊田社長のメッセージに注目が集まっていた。

 2014年度は、本業の儲けを示す営業利益が前年度比20.0%増の2兆7505億円、純益は同19.2%増の2兆1733億円で着地した。原価改善の上積みや円安の追い風などによって、2期連続で最高益を更新。日本企業として初めて純利益が2兆円台に乗った。

 だが豊田社長が、好業績について顧客や販売店、仕入れ先、従業員への謝意を表した後に強調したのは、むしろ危機感だった。

 「今年は、トヨタが持続的成長に向けた歩みを着実に踏み出すのか、それとも、これまで積み重ねてきた努力にもかかわらず元に戻るのか、大きな分岐点になる」

トヨタの危機感の根源にあるのは、販売台数の頭打ち感だ。同日に発表した2015年度予想は、営業利益が前年度比1.8%増の2兆8000億円、純利益は同3.5%増の2兆2500億円と、ほぼ横ばいだった。

 販売台数は、市場全体が好調な北米で増加する反面、日本やアジア、ロシア、中近東などで減少によって、連結ベースでは同7.2万台減の890万台を見込む。持分法適用の中国を含むグループ総販売ベースでも1.8万台減の1015万台とマイナス見通しだ。

 実際、2014年度も日本やアジアの低迷で連結販売台数は減少した。中国の伸びでかろうじてグループ総販売台数は増えたが、わずか3.5万台増だった。販売台数見通しは多少保守的な側面があるとはいえ、中国市場の減速感が強まる中で大きく増える環境にない。

■ 費用は軒並み増加基調

 一方で、厳しい競争を勝ち抜くためには、研究開発費や設備投資などは増やしていく必要がある。新興国を中心に労務費も増加基調だ。原価改善や営業努力などを積み上げても、利益を大きく増やすことは難しい。

 予想の前提は1ドル=115円、1ユーロ=125円で、足元の1ドル=120円、1ユーロ=134円が続けば、2000億円超の利益押し上げ要因になる。ただ、実態として販売台数を増やしていかないことには、本来的な意味での「成長」とは呼べない。

 むろん、そのための布石は打っている。

 1つがTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)と呼んでいる自動車の新しい開発手法だ。当面は先行投資がかさむが、順調にいけば、商品力アップによる販売台数増や収益力の一段の向上が期待できる。今年後半に投入を予定する新型「プリウス」が第一弾。TNGAが想定どおりの効果を生み出せるのか、まさに“分岐点”となる。

 中国新ラインやメキシコ新工場、グループの事業再編、北米も本社統合など、次々とブチ上げた施策をいかに実行していくかも、今後の成長のカギになる。「チャレンジしなくなれば、必ず成長は止まる。結果が出る・出ないではなく、とにかくチャレンジをし続ける」(豊田社長)。

 短期的な利益だけを追いかけるのではなく、30年、50年という視座に立った布石をどれだけ打っていけるか。「トヨタでは過去、打席に立って1割しか打てないなら、ゼロ打数ゼロ安打が評価された。ヒットが打てなくてもバッターボックスに立った人が評価される会社にしたい」。豊田社長のこの言葉は、社内へのメッセージであると同時に、株式市場に対する宣言でもある。