名誉の「降格」 福島支える…道警辞め県警巡査に

◇復興派遣で決意「住民に寄り添う」

 東京電力福島第1原発事故で避難生活を強いられている福島県内の人たちに少しでも貢献したいと、北海道警を辞め今春に福島県警に採用された警察官がいる。郡山署地域課の坂本鏡仁(あきよし)巡査(31)。道警から復興支援のため1年間福島に派遣され、被災者と触れ合う中で「ずっと支え続けたい」と決意した。道警時代の巡査部長から新任の巡査に階級が下がったが、「仮設住宅の住民から生活の相談まで受けるような警官になりたい」と、にこやかに話す。

坂本巡査は福岡市出身。幼い頃から警察官に憧れ、大学卒業後に福岡県警と北海道警の採用試験を受け、2006年秋に北海道警の警察官になった。

 転機となったのは11年3月の東日本大震災。津波で街が流される光景や原発事故で故郷に帰れない人を新聞やテレビで見て「こんなに困っている人たちがいるのに、警察官として自分は何もできていない」と感じた。行方不明者の捜索活動や仮設住宅の見回りを担う「ウルトラ警察隊」に応募し、特別出向者として12年2月から福島に派遣された。

 福島県警では復興支援係に配属され、避難区域のパトロールや仮設住宅の見回りをした。忘れられないのは、浪江町から福島市内の仮設住宅に1人で避難していた80代の女性の話。「津波がきたとき、近所に寝たきりのおじいちゃんがいるのを知っていたのに、助けないで逃げてしまった」と泣きながら語った。被災者の心が深く傷ついていることを知った。13年3月の任期終了まで時間を見つけては仮設住宅を回り、住民と言葉を交わした。

 北海道に帰ってからも福島のことが頭から離れなかった。「派遣期間中に、もっとできたことがあったはずだ」。都道府県警には他県警に退職まで出向する「永久出向」という制度がある。しかし、制度を活用するには所属する都道府県警の承認が必要で、北海道警から福島県警に出向するのは前例もなく難しいと考えた。

 「道警を辞めて福島に行こう」。道警の上司から「せっかく巡査部長になったばかりなのに、階級が下がってもいいのか」と言われ、両親からも「放射線の影響が心配」と反対されたが決意は変わらず、福島県警の採用試験に合格し、北海道警を辞めた。

 郡山署では交番勤務となり、現在の担当地区には仮設住宅はない。「福島県警で努力を重ね、まず被災者支援に携わる部署に行くことが目標。多くの被災者から『おまわりさん』ではなく、『坂本さん』と名前で呼ばれるほど、住民に寄り添っていきたい」と話した。