進む円安、家計・中小企業に痛手…食品値上げ「格差拡大」警戒も

円安ドル高が急速に進んでいる。円安は自動車など輸出関連産業にとって収益の押し上げにつながる半面、輸入品の原材料価格の上昇などで家計や一部の中小企業にとっては逆風となる。識者からは、過度な円安は「格差拡大」につながると懸念する声も上がっている。

 輸出関連業種にとって、円安は採算改善が期待できるため追い風だ。トヨタ自動車の平成28年3月期の想定為替レートは1ドル=115円で、1円円安になると営業利益が400億円押し上げられる。想定レートが1ドル=118円の富士重工業も、1円の円安で営業利益が98億円増える。

 もっとも、自動車業界では海外の需要のある地域で生産する“地産地消”が主流になっており、「円安だからといって日本からの輸出を大きく増やすのは難しい」(大手幹部)との声もある。

 大阪ガスの本荘武宏社長は28日、記者団に、ガスの供給先である関西企業が円安で輸出を増やすなどして追い風になるとして、「円安は中長期的にはガス需要にプラスだ」と語った。

 一方、円安が進めば、海外からの原材料価格がその分上がる。

 家計に身近な食品や外食では最近、円安などに伴う値上げが相次いでいる。ヤクルト本社は、飲むヨーグルト「ジョア」を6月1日に23年ぶりに値上げする。大手スーパー、西友の上垣内猛最高経営責任者(CEO)は「(食品値上げの)プレッシャーがゼロというわけでない。われわれは戦っている」と強調する。

 木質パルプなどを輸入に頼る製紙業界も円安が業績を直撃している。大王製紙の28年3月期の想定為替レートは1ドル=122円だが、佐光正義社長は「円安のデメリットは(企業努力で)吸収して中期事業計画を達成したいが、現時点では厳しい」と苦渋の表情を浮かべた。

 企業規模が小さく販売価格への転嫁が難しい中小企業にも、円安進行への警戒感が広がっている。プラスチック加工を営むプラスチック工房秋川(東京都あきる野市)の岡部良太技術営業部長は「原材料価格が上昇しかねず、業績への影響が心配だ」と訴える。

 大和総研の熊谷亮丸チーフエコノミストは、現在の為替相場について「企業の経常利益を押し上げるなどして日本経済全体にとってプラスになるが、恩恵は業種や企業規模によって違いがあり、格差拡大をもたらす」と警告する。

 米国では、29日に1〜3月期の国内総生産(GDP)改定値、そして6月5日に5月の雇用統計など、為替相場に影響を与える経済指標の発表を控えている。

 市場関係者は「内容が市場予想を上回れば、年内の米利上げが現実味を帯び、心理的節目となる1ドル=125円台も視野に入ってくる」との見方を示す。行き過ぎた円安は緩やかな景気回復を歩む日本経済にとって冷や水となりかねない。