食品業界に値上げの波、牛丼もパンも−プレミアムで「納得感」狙う

外食産業や食品製造、小売りの各社は、デフレ経済でしみついた低価格戦略から舵を切りつつある。鍵を握るのは、付加価値を高めた商品で、消費者に値上げへの納得を得られるかだ。

牛丼チェーンの松屋フーズからコンビニエンスストア最大手、セブン&アイ・ホールディングスまで、消費者は高付加価値商品には相応の金額を支払うとの前提に立った戦略をとる。デフレ経済の下で成長したユニクロ擁するファーストリテイリングなどがとってきた低価格戦略からの移行だ。

「値段を安くしたら量的に売れるかといえば、そういう時代じゃなくなってきている」と話すのは7&iHDの村田紀敏社長だ。「新しい商品がどれだけマーケットの中に打ち出せるか。そしてそれが今までより価値がある物とか、より味がいい物」だと4月の会見で述べた。同社は2015年2月期(前期)まで4期連続で最高益を更新している。

こうした変化が最も鮮明に現れているのが食品関連業界だ。過去2年は円安の影響で、輸入するトウモロコシ、大豆、砂糖、小麦などの原材料価格が高騰し、価格転嫁を余儀なくされている。山崎製パンや森永製菓など食品メーカーでは値上げが相次ぐ。企業が新製品を出す際に、値段を据え置きながら内容量を減らす戦略にも反映されている。

やむない値上げの一方で広がりつつあるのが強気の価格設定に踏み切る動きだ。インフレ時代に対応した価格戦略への変化は、安倍晋三首相や日本銀行の黒田東彦総裁が目指す経済の好循環実現の一助となる。

実質賃金

物価の影響を加味した実質賃金は4月に前年比0.1%増となり、ようやく2年ぶりのプラスとなったばかり。こうした中、小売り企業が従来の値下げでなく値上げに踏み出したのは、アベノミクスの効果だ。今後、各社は値上げをしすぎて消費者心理を冷え込ませないようにしなければならない。

マッキンゼー&カンパニーでの勤務経験を持つ経営コンサルタント、菅野誠二氏は企業が値上げする際に消費者に「納得感」を持ってもらえる「実のある」値上げが必要だという。「われわれが上げたのは値段だけでなくて、価値を上げましたということが提案できる会社は生き残れるだろう」と述べた。

こうした値上げの動きは始まったばかりだ。4月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は、消費増税の影響を除くベースで2カ月ぶりに前年比ゼロ%だった。黒田総裁は今年度後半にはエネルギー価格下落の影響が剥落し、物価は上昇率を高め、目標の2%に向かっていくとみている。

プレミアム牛めし

昨夏、松屋フーズは「プレミアム牛めし」を発売。従来の牛めしが並盛で290円なのに対し、プレミアム牛めしは380円に設定されている。

「消費者の目線も非常に厳しくなってきているし、価格をいじるということになったら、本当に納得していただかないと客離れを起こしてしまうので、そこは十分気をつけないといけない」と同社経営管理本部の丹沢紀一郎副部長は話す。

ウェブページによると、プレミアム牛めしでは牛肉を冷凍せず、0度前後の凍結しない程度の温度で保存することで、冷凍牛肉を上回るうま味成分やふわふわとした食感を引き出している。

7&iHDでは2007年から展開している「セブンプレミアム」ブランドの商品を拡充させている。2月には「セブンゴールド 金の食パン」をリニューアル。バター比率を高めて食感を改善させるなどした。

デフレで委縮した企業や消費者の心理を変える先導役は、食品産業や食品小売り、外食だとブルームバーグ・インテリジェンスの消費財アナリスト、トーマス・ジャストラブ氏はみている。消費者が食料品や飲料を買い控えることはないからだ。「新しい車やテレビ、冷蔵庫を買うのを我慢するほうがはるかに簡単だ」とジャストラブ氏は述べた。