ダイエー、生き残りへ原点回帰 食品特化した新業態店でイオンとすみ分け

かつて「流通業界の王者」と呼ばれながらもイオンの完全子会社となったダイエーが、食の分野に特化した新業態店に企業としての生き残りを懸けている。6月に東京都内に開店した1号店を皮切りに今年度中に計5店ほど出店する。従来の店舗では来店頻度が低かった30、40代のファミリー層や単身者向けなどの品ぞろえを強化し、来客数や収益の底上げを図る考えだ。過剰投資で膨れ上がった借入金の返済を優先し、衣料品などを扱う従来型店舗の改革が遅れた経緯があり、創業時から強みとしてきた食への原点回帰で巻き返しを狙う。

 ◆衣料品・雑貨が低迷

 「ダイエーが新たなステージに突入した」。近沢靖英社長は6月20日、赤羽店(東京都北区)を改装して新業態「フードスタイルストア」の1号店として開店した際、こう宣言した。フードスタイルストアは、売り場面積が5000〜8000平方メートルの既存店を改装し、品ぞろえを食品関連の商品などに特化した。改装前の赤羽店は1階が食品売り場で、2階や3階は衣料品や雑貨を売っていた。

 ただ、ダイエーが展開してきた従来型の総合スーパー(GMS)は「2階より上の階は商売になっていなかった」(近沢社長)というように、衣料品や雑貨の販売が極度に低迷。ニーズとかけ離れた衣類や肌着などを並べても消費者にとっては魅力に乏しい売り場となっていた。

 このため、生まれ変わった赤羽店では、食を軸に若年層も来店しやすい店舗づくりを心掛けた。1階は少量の総菜や品質の高い食材を中心に、1人暮らしの若者だけでなくシニア層も買いやすい商品をふんだんにそろえた。2階はワインや日本酒を豊富にラインアップした酒類専門店のほか、料理教室などのイベントスペース、カフェなどに一新。3階では必要最低限の衣料品や雑貨を当面扱うが、将来的には全フロアを食分野に特化させることも視野に入れる。

 ◆原点に立ち返る

 1957年の設立後、ダイエーは食品を軸に成長を続け、80年には小売業で初めて売上高が1兆円を超えた。しかし、バブル景気前後の過剰投資が響き、収益は急速に悪化。2004年から産業再生機構の支援の下で経営再建が進められた。その後の丸紅やイオンとの提携を経て、今年1月にはイオンの完全子会社となった。

 ダイエーが食品中心のスーパーという原点に立ち返ることになったのは、イオンの意向が大きい。GMSを中心とするイオンの店舗とすみ分けを図るには、強みを持つ食品への特化が欠かせないと判断したわけだ。ダイエーは国内約280店のうち九州と北海道の全店舗と、88店の大型店をイオンに移管することを決めている。残る200店弱はフードスタイルストアか、売り場面積が3000平方メートル以下で都市型の「小型スーパー」に転換する方向だ。

 ■「Daiei」屋号に執着せず

 「ダイエーを長年使い、親しんでもらった優良顧客がいる」(近沢社長)ものの、「Daiei」の屋号には執着しない。実際、赤羽店はダイエーの名称を残しながらも「フードスタイル」との表記を入り口に掲げ、大きな移行期にあるダイエーの立ち位置を示している。ダイエーは売上高が減少傾向で営業赤字、最終赤字も続いており、かつての栄光の証しであっても、2018年度をめどに消えゆく屋号にとらわれている時間はない。赤字を垂れ流し続ければ店舗改装にかける再投資の余力は失われていく。赤羽店では新業態への転換で年間売上高を改装前より15%増やす計画を掲げる。収益の改善で手にした原資を次の店舗投資に振り向け、地道に業績向上を図る戦略だ。

 ライバルも手をこまねいているわけではない。イトーヨーカ堂やユニーなどは食品売り場の面積を増やし、鮮度にこだわった食材を充実させ、百貨店も新業態の店舗を展開して食品を強化する動きを見せている。ただ、ダイエーには長年にわたって作り上げた強みがある。生産地から加工、販売までのバリューチェーン(事業価値の連鎖)だ。食品に特化すれば「最大の強みを生かして他社との差異化につながる可能性がある」(証券アナリスト)。かつての王者が息を吹き返すことができるかは、まさに新業態の成否が鍵を握っている。