大和魂ここにあり!「巨人アップル」との特許訴訟 一歩も引かぬ中小企業のオヤジ

米アップルを日本の中小企業、島野製作所(東京都荒川区)が昨年8月、特許権侵害と独占禁止法違反で訴えた裁判が、佳境を迎えている。アップルは特許を持つ島野の社員に、共同特許にするように働きかけたり、「特許無効審判」を提起するなど、なりふり構わぬ戦術で優位に立とうとしているという。一方の島野は6月初旬、アップルに部品を供給しているアジアの製造会社に、特許を侵害しているとして販売差し止めを請求。時価総額で世界最大の企業に対し、一歩も引かずに立ち向かっている。

 ■一歩も引かぬ島野製作所

 島野はポゴピンと呼ばれる電子機器などに使われるピンを製造。電気信号を伝えるスムーズさや耐久性に優れたピンをつくる高い技術を誇っており、10年前からアップルのノートパソコンに接続する電源アダプタ側の端子向けに供給してきた。

 このピンの製造方法に関する特許が焦点になっている。島野の船木幸城社長は、「もともと誰のアイデアだったか、という点が最も重要で、それははっきりしている」と強調する。

 島野によると、アップルから依頼を受けて新しいピンを開発したが、アップルは急に、自社で開発したものだと主張してきたという。島野はこれを拒否し、同社の社員の特許として認められた。

 しかし、アップルは2012年、島野への発注を減らし、アジアの企業からも供給を受けるようにした。この企業が島野の特許を侵害していたという。島野は今年6月、この企業に対し販売の差し止め請求に踏み切った。従わなければ追加の措置を取る可能性があるという。

 また、特許を持っている島野の社員に対し、アップルは今年6月までに2回、「共同特許にしてほしい」と打診してきたという。その一方で、アップルは本来登録されるべき特許ではなかったとして、特許庁に無効を請求する「無効審判」を起こしている。

 ■公取委も関心

 島野側が「独禁法違反」と主張しているのは、突然発注を止められ、再開のためにやむなく値下げ要求に応じた同社に対し、13年5月にアップルが約159万ドル(当時の1ドル=102円程度で計算すると、約1億6000万円)のリベートを求めてきたとされる問題などだ。これは値下げ前に島野から買い、アップルの在庫になっていたピンの数に、値下げ分の金額をかけた額だと言われたが、島野は支払わざるを得なかったという。島野側は、すでに販売したピンへの不当な値下げ要求で、下請けに対する「優越的地位の乱用」に当たるとしている。この問題については年内にも何らかの判断が出る見通し。公正取引委員会も関心を寄せているようだ。

 アップル側はこの訴訟について、コメントしていない。

 ただ、島野の社員に共同特許にしてくれるように働きかける一方、無効審判を起こすという戦術は整合性を欠き、“巨人”アップルの焦りすら感じられる。

 島野の船木社長は、「企業規模の大小は関係なく、お互いが利益を追求するのが(パートナーシップの)本来の姿。間違ったことをしたのだから謝ってもらわなくてはならない」と強調している。

 アップルによる特許侵害では、携帯音楽プレーヤー「iPod(アイポッド)」に使用されている円形の操作盤をめぐって、日本のソフトウエア技術者が提訴。知財高裁は14年4月、1審東京地裁判決に続きアップルに約3億3600万円の支払いを命じた例がある。

 ■苛烈な下請け対応

 取引量の大きさを背景に、アップルが下請けに対して苛烈な対応をしている事例は度々、話題になる。島野以外の部品メーカーからも「人の技術を盗んでヒット商品を産み出している」(幹部)と、アップルのビジネスモデルへの厳しい指摘が上がるほどだ。アップルは自社工場を持たず、世界中の取引先と関係を深めてサプライチェーンを構築する手法を取るだけに、日本の中小企業が“ものづくりの意地”を原動力に起こした裁判の行方が、世界戦略に影響を与える可能性がある。