東芝追加処分 経営監視強化道険し「三つの信頼失った」

不正会計問題が発覚した東芝は、再発防止に向けた作業を本格化させている。29日には執行役も含めた役員の追加処分を発表し、経営責任の明確化を図る一方、社外取締役と外部の専門家を集めた「経営刷新委員会」を発足させた。一連の問題では歴代経営トップが関与して組織的な利益水増しが行われていたことが明らかになっている。失った信頼の回復に向けて、経営の監視機能をどう高めるかなど課題は山積している。

「今回の問題で東芝は株式市場の信頼、お客様の信頼、従業員の信頼の三つを失った」。東京都港区の東芝本社で開かれた経営刷新委員会の初会合で、伊丹敬之委員長(社外取締役)は強い危機感をあらわにした。

 東芝が設置した第三者委員会は20日、調査報告書を提出。1500億円を超える利益水増しは「経営トップらの関与に基づき、多くの事業部門で同時並行的、組織的に実行された」と認定。また、目先の利益を最大化する観点から「チャレンジ」と呼ばれる過大な利益目標の達成を強いられ、現場が利益水増しに走る構図を浮き彫りにした。社外取締役が出席する取締役会には損失発生など重要な情報が報告されず、「監督機能が働かなかった」とも指摘した。

 第三者委の報告書を踏まえ、東芝は29日、現時点での再発防止策を発表。社長らが利益目標の達成を迫る場となった社内会議「社長月例」は廃止するほか、取締役会に対する業績報告を充実させると説明。取締役に弁護士など法令順守の専門家らを新たに選任し、過半数を社外取締役にするとした。今後は経営刷新委員会で企業統治や新たな経営体制の在り方を議論する。

 東芝の対応について金融当局の幹部は「社外取締役を増やすなど企業統治の形を変えるだけでは、問題は解決しない」と指摘し、より実効力のある対応を要請。法令順守の専門家からは「会社に不都合な情報を社外取締役が把握できるようにするため、専従のスタッフを設けるべきだ」などの指摘が出ている。

 一連の問題で田中久雄前社長や佐々木則夫前副会長を含め主要事業を担ってきた取締役8人が辞任した。16人いた取締役の半数に達する。東芝は利益水増しを防げなかった社外取締役4人の大幅入れ替えも検討。この問題で関与がないとされた室町正志会長兼社長が新体制で社長専任となる方向で調整しているが、役員の相次ぐ辞任で経営の混乱は当面避けられそうにない。

 ◇キーワード・執行役

 会社の業務執行を担う役員のこと。東芝などが経営形態として採用している「委員会設置会社」では、取締役会が主に経営監視を担う一方、日常的な業務執行は執行役に委ねているのが特徴。東芝は「執行役が経営環境の変化に対応した意思決定、業務執行を行うことにより、経営の機動性を高める」と説明。一方、取締役会については「経営の基本方針などの決定と執行役の監督に徹し、監督機能の強化を図る」としている。

 取締役と執行役は兼ねることができ、東芝では田中久雄前社長らが引責辞任する前は取締役16人のうち8人が執行役を兼務していた。現在は室町正志氏が取締役会長と、代表執行役社長を兼務している。

 ◇経営刷新委員会のメンバー

◎伊丹敬之  社外取締役、大学教授

 島内憲   社外取締役、元外交官

 斎藤聖美  社外取締役、企業経営者

 谷野作太郎 社外取締役、元外交官

 橋本正己  公認会計士

 北田幹直  弁護士、元大阪高検検事長

<オブザーバー>

 小林喜光  経済同友会代表幹事、三菱ケミカルホールディングス会長

 古田佑紀  元最高裁判事

 敬称略、◎は委員長