空港取材で福原愛がとった神対応

「いやあ、神だな。さすが愛ちゃん」

隣にいた他紙の記者はそうつぶやいて感心しきり。

わたしも「確かに」と強くうなずいた。

少し前の話になるが、韓国オープンで優勝した卓球の福原愛を帰国時に空港で取材する機会があった。

 アイドルの握手会は普段のテレビやライブとは違うファンへの神対応、塩対応が分かる場所。アスリートの空港取材も大会中のミックスゾーンとは違った表情が垣間見られる現場である。

 帰国してきた福原はまず妊娠中の旧知の女性記者を見つけ、大きくなったおなかに触らせてもらって大興奮だった。囲み取材ではお友達感覚をなくしてしっかりとした受け答え。ついでに聞かれたサッカー女子W杯の感想についても「試合見てないんで分かりません」なんてつれない返事はせず、敗戦の結果に本当に残念そうにしつつ、親交のある澤穂希にはエールを送った。

 これだけでも十分なのだが、報道陣としてはトロフィーを持った写真を撮らせてほしかった。マネジャーによればトロフィーはトランクの中にしまってしまったらしい。

 遠征を終えた選手が早く帰路に就きたい気持ちは分かる。それでも「あの〜」と恐る恐るお願いしてみた。すると福原は「もうしまっちゃったんで」などと冷たいことは言わずに「あ、そうか!」とトランクの奥深くからがさごそ取り出してくれた。

 ニッコリ笑って、はいチーズ。

 その時、ついでにトランクから出てきたのは大量のドラえもんの単行本だった。「本当にうるっときちゃいます。読みます?持っていきますか?でも荷物になっちゃうか。じゃあ“感動編”だけでもどうですか?」と真剣に記者に勧める姿に思わず報道陣から笑いが起こった。

 これまで飽きるほど取材を受け、トップアスリートとしての地位も確立している福原だが、オフィシャルではない空港取材という場であっても実に自然体で記者とのやり取りをこなしていた。その様子に普段は卓球担当ではない記者も好感を抱いた。

 もちろんマスコミに対する接し方は選手それぞれ。誰もが優しくある必要はないだろう。ただし少しでも本音や素の部分を見せてくれれば、取材する側は来たかいがあったと感じるもの。それは優しさでも、怒りでも、落胆でも構わない。

 “愛ちゃんの神対応”は、取材に行ったかいがあった、と十分に思わせてくれるものだった。