狂犬病 放置キケン、かまれたら即ワクチン 海外で感染も

日本から狂犬病に感染する危険性の高い国に行き、現地で動物にかまれるなどした人の半数以上が、発症を防ぐためのワクチン接種をしていなかったことが、成田空港検疫所の調べで分かった。狂犬病は確立された治療法がなく、発症するとほぼ100%死亡する。夏休みで海外旅行客が増える中、専門家は「狂犬病が発生していない地域は世界的にもまれ。適切な処置を忘れないで」と注意を呼び掛けている。

 狂犬病は感染前のワクチン接種で予防できるが、渡航半年前から計3回の注射が必要なため、厚生労働省は動物にかまれた後の速やかな対応を推奨している。すぐに水とせっけんで傷口を15分以上洗い流し、できるだけ早くワクチンを接種すれば発症を防げる。ワクチンは直後と3、7、14、28、90日後と計6回の接種が必要だ。

 成田空港検疫所の磯田貴義医師らは、2013年に寄せられた「動物にかまれるなどした」との健康相談192件を分析した。その結果、フィリピンやインドなど世界保健機関(WHO)が狂犬病感染の危険性が「中等・高度」とする国での事例が81%の155人に上り、そのうち過半数の79人がワクチン接種を受けていなかった。ワクチンを受けた人でも、27%が接種回数が不足しており、36%はかまれるなどした後1日以上経過してからの接種だった。

 磯田医師は「国内で動物から病気をうつされる心配があまりない日本人は、海外でもつい動物に手を出しがちで、病気に対する意識が薄いのではないか」と指摘する。

 接触した動物は59%がイヌだったが、ネコ(18%)やサル(14%)もおり、イヌ以外の動物の狂犬病リスクを正しく理解していなかった可能性もある。

 国内の狂犬病発生例は、06年にフィリピンでイヌにかまれた2人が帰国後に発症して死亡したのを最後に確認されていない。しかし世界ではほとんどの国で発生しており、WHOによると死亡者は毎年約5万5000人と推定される。

 国立国際医療研究センターの金川修造・トラベルクリニック医長は「日本でいつ発症者が出てもおかしくない状況。感染の有無は発症前には診断できないため、発生国で動物にかまれるなどしたら、かすり傷程度でも必ず対策を取らなくてはならない」と話す。

 【ことば】狂犬病

 狂犬病ウイルスを持つ哺乳動物にかまれる、ひっかかれる、傷のある皮膚をなめられるなどすると感染する。一般的な潜伏期間は1〜2カ月で、神経を通じて脳が侵され、呼吸障害などの症状が出て死亡する。ヒトからヒトへの感染はほとんど報告されていない。日本は世界でも数少ない「狂犬病の発生がない国」。