大手商社、シェールで積極派と慎重派“二極化” 原油供給過多が契機

米国のシェール革命に商機を見いだしていた日本の大手商社が、世界的な原油の供給過剰を契機に資源戦略の転換を迫られている。伊藤忠商事が米シェールオイル・ガス開発事業からの撤退を決め、開発失敗で巨額減損を計上した住友商事も関連の権益の大半を売却する方向だ。一方、先行した三井物産や三菱商事は、価格下落で減損を計上したものの、資源戦略は長期的な視野との立ち位置を崩さない。原油安下でも三菱商事は西オーストラリアの陸上油田の商業生産を決定。さらに三井物産と三菱商事は豪州のブラウズの液化天然ガス(LNG)開発の調査に参画し、資源安を逆手に取るなどして攻勢に転じている。大手商社の資源戦略が明確に二極化し始めた。

■期待されたが…撤退相次ぐ

 伊藤忠は6月、25%を出資していた米石油・天然ガス開発会社の全株式を同社に1ドルで売却した。前期(平成27年3月期)連結決算で同事業関連で435億円の減損損失を計上し累計減損額は1000億円超に上るが、それでも28年3月期の最終利益は非資源好調で2期ぶりの最高益を見込む。経営資源を資本提携したタイの財閥チャロン・ポカパン(CP)グループと中国の国有コングロマリットの中国中信(CITIC)グループとのアジア戦略に集中する。

 住友商事は開発の失敗で巨額減損を計上し、27年3月期連結決算で28年ぶりの最終赤字に転落。損失計上した鉱区の大半の売却を検討し、当面は非資源に経営資源を集中する。

 シェール石油・ガス開発はそもそも開発の難しさが指摘されていた。地中の頁岩(けつがん)層にガスや原油があることは分かっているが、地上まで取り出せるかは層の圧力や掘削技術などの条件で異なる。同一鉱区内でさえ、掘削井ごとに生産量に差が出ることもある。

 撤退の動きは日本だけではない。印リライアンス・インダストリーズはイーグルフォード(テキサス南部)のガス田開発の売却先を探している。1990年代から試掘してきた米中小企業が優良鉱区をおさえる一方、出遅れた外資が苦戦する状況が鮮明になっている。また、中小のシェール企業の中には、価格下落をオプションなどでリスク回避できずに原油安が経営を直撃し、今年1月にはシェール関連で破綻に陥ったケースもあり、淘汰の動きも進んでいる。

■三井、三菱は反転攻勢

 そんな中、三井物産は“川上”の資源開発だけではなく、競争力のあるガスを使った化学事業などを強化することでリスクを回避する。同社はこれまで通り、米マーセラス(ペンシルベニア州)とイーグルフォード(テキサス州)の事業への参画を続ける。足元では、北米ガス価格が低迷しているが、その競争力を生かして合成樹脂などに使われるメタノールを生産するなど総合力で乗り切る。

 景気が回復基調の米国は有望な投資先と捉え、三菱商事や丸紅、双日などもシェールガスなどを使った化学事業や発電事業などを検討している。

 「米国のシェールオイル・ガス価格は今後上昇し、最悪期は脱した」(石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)との見方もある中で、資源価格に左右されずいかに中長期のビジネスモデルを構築できるかに各社は知恵を絞っている。

 三菱商事は南米トリニダード・トバコでガスを使ってメタノールを生産し、広い意味で資源価格下落のリスク回避と位置付ける。

 原油安で一時は様子見だった資源開発を相次ぎ再開する動きも目立ってきた。

 三菱商事は7月、豪州の中堅資源会社と開発中の陸上油田のウンガニ油田の商業生産を開始すると発表。足元の原油安は販売面ではマイナスだが、「開発や輸送費のコスト競争力が高まり、むしろチャンスになる」(藤原正樹・エネルギー事業グループの米州・オセアニアE&P事業部長)と判断した。

 豪州では原油安で資源開発の新規投資が鈍り、資機材やリグの市況が軟化している。原油を港まで運ぶタンク車の燃料費も安くなるため、採算性が合うという。

 三井物産も三菱商事と共同で参画する西オーストラリア州沖合で計画中の豪州ブラウズ液化天然ガス(LNG)の基本設計を始めることを決めた。

 当初計画はパイプライン輸送し、陸上に液化施設を建設予定だったが、建設コスト上昇で経済合理性が成り立たないと判断。英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルが持つ、コスト競争力の高い浮体式LNG(FLNG)技術導入へ切り替えることで、2020年以降に生産開始する計画だ。

■体力勝負の時代に

 世界では、4月に英欄ロイヤル・ダッチ・シェルが英総合エネルギー会社のBG(ブリティッシュ・ガスを約8兆4000億円で買収すると発表。攻勢に向けた大勝負に出た。米シェール事業から撤退する一方で、強みのLNG事業に磨きをかけるのが狙いだ。資源安を乗り切るには、それを好機にとらえる知恵や体力勝負の時代になりそうだ。