カタログ通販のニッセン、「連続赤字」の泥沼

「リストラは来年を待たずして行う。聖域なく見直しをする」。カタログ通販大手のニッセンホールディングスの市場信行社長は、業績浮上に向けて年初からこう公言していた。そして8月17日、大型家具事業からの撤退など具体策を発表。翌日、都内で行われた決算説明会で、市場社長は「来年の黒字化を目指し、ウミ出しを可能な限りこの下期に行う」と強調した。

2016年2月をメドに手を引く大型家具事業は、グループ全体の売上高の7.6%を占めていた。だが客のニーズをとらえきれず、売り上げは年々縮小。同時に、人手不足などによる配送コストの増加で赤字に陥っていた(2014年度は12億円の営業赤字)。

 ニッセンはこのほか、120人(グループ全体は約1400人)の希望退職者の募集や、海外に設けている検品所の整理を発表した。これらの費用として、特別損失を57億円計上する。

■ 巨額赤字で財務が毀損

 これらの結果、2015年12月期の業績見通しは、当初の計画(売上高1776億円、経常赤字50億円、最終赤字54.5億円)から売上高1620億円、経常赤字61億円、最終赤字119億円に下方修正した。2013年12月期から3期連続最終赤字となる公算だ。

 同社の期初時点の純資産は203億円、自己資本比率は19%と元々低水準だったが、今回の巨額赤字計上で財務基盤はさらに大きく毀損する。また、リストラにより約20億円のコスト削減効果を見込むが、これだけでは来年度に黒字浮上するには不十分だ。

 「銀行を含めた支援状況はまったく問題ない。資金が必要な場合は資本(調達)を含めて最適な調達ができると考えている」(戸田泰精・グループ財務本部長)と資金面での不安はないことを強調するものの、2014年1月に傘下に入った親会社セブン&アイ・ホールディングスの支援を含めた本業のテコ入れが待ったなしの状況だ。

セブン&アイは、全国に約1万8000の店を抱えるセブン-イレブンの店頭で、グループ会社のインターネット通販商品などを24時間受け取ることができる「オムニチャネル戦略」をこの秋から本格的にスタートする。セブン&アイがニッセンを傘下に引き入れたのは、同社が長年培ってきたコールセンターのノウハウや、物流拠点を取り込むためだった。

 セブンは同時に、買収直後からニッセンにテコ入れを行ってきた。2014年3月にはセブン-イレブン・ジャパン出身の永松文彦氏がニッセンの副社長に就任。きめ細かく消費者のニーズを取り込もうと、カタログ発行回数を5回から8回に増やすなど、新たな戦略を打ち出してきた。だが結局売り上げは伸びず、2014年度の赤字幅は当初の計画よりも拡大。不良在庫を多数抱えたことにより、2015年度も採算悪化の一因となっている。

 「価値ある商品が作れていなかったのに、カタログだけ増やしても意味がない」(セブン&アイ役員)。そこで2015年度は一転、カタログの発行回数を元に戻し、部数やページ数も減らしてコスト削減を進める一方、商品開発や売り方を抜本的に見直す。

■ 商品戦略で迷走

 まずは品ぞろえを絞りこむ。これまでは売り上げを伸ばすために、外部倉庫まで借りなければならないほど商品数を増やしてきたが、ブランド別に管理をしてきたために似たようなものが多数でき、売れない商品を抱えることになってしまっていた。今後はカテゴリーごとの管理を徹底する。

 さらに市場社長自身が「これまで低価格がニッセンのシンボルとされてきてしまったのがそもそもの間違い」と認めるとおり、価格重視の戦略を見直す。今後は品質を高めると同時に、価格も上げた商品の数を増やす。たとえばワイシャツはこれまで2000円以下のものが大半を占めていたが、今後は1000〜4000円ほどに価格帯を広げ、これまで取りこぼしていたニーズをくみ取る。

 だが、ファストファッションやネット通販が台頭し、いつでもどこでも好きなものが手に入る時代に、カタログ通販が成長を遂げるのはそう簡単ではないだろう。ニッセンも限定商品の拡充などでネット経由の販売強化に力を入れると同時に、この秋からセブン-イレブン店頭での商品受け取りサービスも始める。

 「これまでは何をどう売り込んでいくのか、PDCA(計画、実行、評価、改善)ができていなかったと思う。いかに消費者のニーズを把握し、品質の高いものをどのように作るのか、こうした考え方をセブンからニッセンに行っているメンバーを中心に変えているところ」(セブン&アイ役員)。強力な助っ人の力も借りて、長い苦境から脱することはできるか。