「年内利上げ」は立ち消え。米経済の本当の回復度

中国の株価が急落する以前から、FRB(米連邦準備理事会)は「年内利上げ」について態度を決めかねていた。それでも、ほぼ10年ぶりと言える利上げがこの9月に行われるのではないか、というのが大方の見方だった。

 だが、1週間ほどで世界経済は一変した。世界第2の経済大国である中国の景気減速が速まりそうな兆しに、各国市場は強く反応。アメリカでは先月24日、ダウ工業株30種平均が取引開始直後から1000ドル以上も値下がりし、終値は前週末比で588ドル安となった。

 世界の経済界ではこの数カ月、FRBによる利上げのタイミングに懸念を示す声が強まっていた。理由は大きく2つある。1つは中国が世界経済の減速を招く兆しを見せていたこと。もう1つは、ギリシャがユーロ圏を離脱する可能性が浮上していたことだ。そこへ今回の金融市場の混乱が拍車を掛け、専門家の間に否定的な見方が強まった。

「9月はあり得ない。12月も怪しい」と、ウィルミントン・トラストの最高投資責任者トニー・ロスは言う。利上げを今月行えば、FRBは市場に「疎い」ことをさらすだけだと言う。

 サマーズ元米財務長官は英経済紙フィナンシャル・タイムズへの寄稿で「危機」という言葉まで使い、年内に利上げをするのは誤りだと指摘した。「この不安定な時期の利上げは金融システムの一部を危機に陥れ、予測不能で危険な結果を招きかねない」

戻らないアメリカの体力

 専門家は、アメリカ経済が08年の金融危機から続く低金利を脱する力があるかどうかに注目している。「投資家は利上げ見送りを喜ぶだろうか。それとも7年たっても、FRBが0・25%の利上げもできない点を憂慮するだろうか」と、ペンション・パートナーズのチャーリー・ビレロは言う。

 ビレロのみるところ、今月の利上げが見送られれば、FRBの言う「データ重視」の金融政策とはつまり、スタンダード&プアーズ(S&P)500社株価指数を気にすることだと受け止められる。事実、この指数が大幅に下がった10年と11年には利上げが先送りされた。

 確かにアメリカ経済には、世界規模の経済危機をよそに繁栄を謳歌した過去がある。97年のアジア経済危機にも、アメリカはほとんど無縁でいられた。

 だが当時と今とでは、アメリカ経済の置かれている状況がまったく違う。90年代後半のアメリカは失業率が低く、ベビーブーム世代が働き盛りで、債務膨張はまだ途上、ハイテク業界が急成長中だった。

 現在はといえば、5年間にわたる資産買い入れ策の効果もあり、金融危機の余波は食い止められたとFRBはみている。しかし多くのエコノミストが、アメリカ経済は十分に立ち直っていないのではないか、中国を震源とする世界的減速に耐えられないのではないかと懸念する。

 FRBは金融危機で負った傷の応急処置をしているだけで、その傷はまだ癒えていないと、サルハン・キャピタルのアダム・サルハンCEOは指摘する。「ウォールストリートはFRBの思惑どおり金融緩和策に反応したが、メインストリート(実体経済)のほうはまったくだ」

 アトランタ連邦準備銀行のロックハート総裁も先週、現在の経済環境がFRBを縛っていると語った。「ドル高、中国の人民元基準値引き下げ、原油価格の一段安といった動向が、経済成長の予測を困難にしている」