長期休暇中「誰とも話さない」は、危険すぎる

シルバーウィークのような長期の休暇に入ると、心の不調を訴える人が増えます。元気な人でも落ち込みやすくなり、もともとメンタルに不調のある人は、さらに症状が悪化することも。通常モードではない生活リズムの変化がストレスを生むのに加え、「人との違い」や「自分の居場所」をことさら意識しやすくなるためです。

前回記事では長期休暇のたびに「家族危機」に陥ってしまう例を取り上げましたが、だったら一人で過ごすようにすればいいかというと、そうでもありません。休暇中に誰とも話さず一人でいる時間が増えると、リラックスできるどころか、かえって心身の不調の要因となることがあるのです。

■ 「行くところがない」から、強烈な孤独感に陥る

 長期休暇となれば、レジャーなどの話題が一気に増え、世間やメディアが、華やかな情報を発信し、お祭りムードが漂います。すると、それがさらに孤立感を高め、激しく落ち込む原因となることがあります。

 「行くところがない」「一緒に過ごす人がいない」「寂しい」という気持ちから、他人を異常にうらやましく思ったり、最終的には、「自分は生きている価値がない」「このまま生きていてもいいことはない」とまで思い詰めてしまうことさえあるのです。

 この現象は長期休暇に限らず、これからやってくるハロウィンやクリスマス、そして年末年始などのイベントなどにも当てはまる現象です。実際にイベントや長期休暇中には、「寂しい」気持ちを訴えてくる相談や、うっぷんを晴らすためのクレームの電話が増える傾向にあります。

長期休暇に限らず、普段から「お一人様時間」に偏りすぎることに注意する必要があります。一人暮らしの人が家に帰ると、誰とも会話をしないで夕食をとり、一言も発しないで大半の時間を過ごすという状況になりがち。社交的な方は友人を誘ったり、コミュニティに積極的に参加することができますが、そのような人たちばかりではありませんよね。

 実際に心の不調を訴えてくる方々のお話を聞く中で気になるのが、リアルな対人接触があまりに少ないことです。仕事や学校から帰って、今日の些細な出来事や、気持ちの変化を話す場がないのです。これはわざわざ時間を取って相談するような悩みの話題ではなく、小さな日常の心境の変化を、リアルタイムで伝える場です。

 小さな悩みや不平などは誰しもが抱えるものですが、その毎日の出来事を誰かに話すことができれば、大きなストレスや問題に発展する前に解消しやすくなります。皆さんも誰かに話をして気持ちが軽くなったという感覚を持ったことがあるでしょう。

■ 話すだけで、問題解決の足がかりを得られる

 解決したわけでもないのに、なんだかすっきりとした気持ちになる、これを「カタルシス効果」といいます。心の浄化作用という意味です。

 ではなぜ、話しただけで浄化作用が得られるのでしょう。漠然とした自分の思いや感覚を人に伝えるには、思いを言葉に変換する必要があります。人にわかるように言葉を選び、それを相手に伝える行動をとる。この一連の作業が、自分の気持ちを整理することにつながり、結果すっきりとした感覚を得ることができるのです。

 そして気持ちが整理されると、視野が広がり、次の思考を始めることができます。問題を解決しやすくする足がかりになるのですね。

 これを疑似体験できるのが、ツイッターやフェイスブックなどSNSの存在です。これらのSNSを上手く活用すれば、対面で話をするのと同じような感覚が得られることもあります。

 しかし、その効果は副次的なものであり、SNSがリアルを超えることは決してありません。素晴らしい景色を映像で見るだけで満足なら、だれも旅行に行こうとは思わないでしょう。愛する人といくら情報を共有しても、実際にその人と会って触れ合うことはまったく次元の違うことです。

もちろん「一人でいるのはよくない」と言いたいわけではありません。一人時間も、大切な時間。それと同じように、小さな心の変化や日々の出来事を誰かに話すということが、どんな人にも必要なのです。そのような場が少ないと感じる人は、ぜひ、家族や身近な人たちとの時間をつくることを心掛けてみてください。

 特に男性は、女性と比べると人に話をする機会が少ないので注意が必要です。人との会話が少なくなると、孤独感を感じやすくなり、一人で問題を抱え込んでしまいがちです。

■ 男性のほうが「気持ちを語れない」理由

 内閣府の発表によると、毎年3万人近くの方が自ら命を絶っています。その男女比は7:3で、男性の方が2倍以上も多いのです。原因の一つには、男性の方が話す機会が少ないということが挙げられています。

 女性は家族や職場の仲間などに、「昨日こんなことがあって嫌だった!」など、自分の気持ちを率直に語れる傾向が強いのに対して、男性は仕事上の「報・連・相」はできても、自分の心の内を屈託なく話すことに抵抗を感じている人が多いようです。アルコールが入らないとなかなか本音を話せない、という人もいます。

 最近は不況が続き、さらに社員のプライベート志向が尊重される世の中になったことで、「飲みニュケーション」の場も減少傾向。対面で誰かに気持ちを吐露できる場がさらに減っています。ですから、そういう機会に誘われたときなどは、面倒に思わず、参加してみるのもいいでしょう。

 また、誘いを待っているだけでは、なかなか機会に恵まれないかもしれません。いきなり新しい出会いを求めるのもハードルが高いと思います。すでに交友のある人、ちょっと親しくなりかけの人など、無理のない範囲で誘ってみるのもいいですね。

 たとえ、タイミングが悪く断られたとしても、誘われた側は、「自分を誘ってくれる人」とあなたを認識し、今度、何かあったときには声をかけようかなと「誘う人リスト」に加えやすくなります。

 一人でいるほうが楽だということももちろんありますが、「お一人様時間」が長いと感じた人は、リアルに気持ちを伝える場と相手を持つことの大切さを見直してみてください。人との対話は、健全なメンタルを保つ上で重要なカギなのです!