チョイ乗り数百円、カーシェア急拡大−「若者の車離れ」に歯止め期待

時間貸し駐車場で国内最大手、パーク24の西川光一社長(51)は、青春時代を過ごした昭和のバブル期の女性は強かったと振り返る。車もなくデートに誘おうものなら鼻であしらわれ、食事代も男性が持つのが当然だった時代に男たちは必死で稼ぎ、競うようにいい車を買った。

それから20年以上過ぎたいま、西川社長は日本の若者の気質がすっかり変わったと感じている。女性が優しくなって電車デートに割り勘もOKという風潮が広がり、高価な車をわざわざ買う人は減った。西川氏率いるパーク24のカーシェアリング事業はこうした節約志向の波にも乗って参入から6年余りで会員数50万人を突破、急成長を続けている。

「若者のクルマ離れ」が進む中、パーク24のカーシェア利用者は20代、30代が半分以上を占める。西川氏は経済的事情などから車に離れているだけで今の若い人も「本当は車を欲しがっている」とみる。「車の楽しさを若いうちに知らないと大きくなっても買いたいという気持ちが続かない」とも述べ、カーシェアサービス充実が車の魅力に触れるきっかけになればと話した。

パーク24のカーシェアリングは、必要なときに短時間でも車を借りられるサービスで、駐車場代やガソリン代、保険料などの維持費がかからないメリットがある。15分で206円からという低料金と全国津々浦々に張り巡らせた1万6000以上の駐車場のうち、約7000からオンライン手続きで簡単に車を出せる利便性が人気を集めている。国内シェア約7割で、カーシェア用自動車保有台数や拠点数では世界でも最大級の規模を持つ。

西川氏は都内の本社での9月のインタビューで、「タイムズカープラス」として展開するカーシェアリング事業の勢いは当面続くとみて約1万3000台の対象車両の保有を毎年約3000台ずつ増やし、2019年までに2万5000台程度に引き上げたいとの考えを明らかにした。

マイカー購入は「リスキー」 若者の車離れ

都内に住んで働いている京谷繁明さん(24)はカーシェアリングを利用し、車の便利さを実感したが、自分で車を買うまでには至っていない。

京谷さんは大学生として富山県に住んでいた13年4月に入会。昨年春から仕事で東京に移り、稼ぐようになっても車は保有せずカーシェアリングを続けている。富山でも公共交通機関とカーシェアの活用で生活でき、交通の便がいい東京ではなおさら車の必要性を感じないという。

節約志向の世の中で育ってきた自分の世代は「車を購入することは非常にリスキー」と考える人が多いとし、現在の自身の所得からすると東京で駐車場代や税金など高い維持費がかかるマイカーを持つことは「まだ現実的ではない。所有するより、好きなときに借りるほうがよっぽど良い選択」と話した。

トヨタの社長も奮闘 若者の車離れ

若者が車の購入や保有から遠ざかっている傾向は数字でも裏づけられる。内閣府の消費動向調査によると、昨年の29歳以下の世帯主の乗用車普及率は前年比2.8ポイント低下の49.3%で少なくとも05年以降で初めて50%を割った。60歳以上の高齢層より10ポイント以上も下回る。ソニー損害保険が今年の新成人を対象にした意識調査では、46%が「車に興味がある」と答えたのに対し、「所有する経済的な余裕がない」との回答が71%もあった。1カ月に車にかけられる金額は平均1万8656円だった。

「若者のクルマ離れ」は国内新車販売低迷の一因とされ、自動車業界でもさまざまな対策を講じてきた。トヨタ自動車の豊田章男社長(59)は一昨年に日本自動車工業会の活動の一環だった大学生対象の講演で「女の子をデートに誘うには免許と車がなければというのが100%の常識だった」と過去と現代の若者のギャップについて話し、「少しでもいいから若い人が車に興味を持ち、好きになってもらいたい」と語りかけていた。

そのパーク24とトヨタは都内でカーシェアリングの実証実験を共同で展開。トヨタが開発した三輪の超小型電気自動車「i−ROAD」やトヨタ車体製の「COMS」を、都内約30カ所のカーシェア拠点に配置し、利用開始場所とは別の駐車場で乗り捨てできるサービスなどの有用性を検証している。

今月開幕する東京モーターショーでも自動車各社は若者の関心を引くような展示に工夫を凝らす。日産自動車は20年以降に運転免許を取得する若い世代を念頭にシートなど内装部品がディスプレーとなってインターネットやゲームを映して楽しめるコンセプト車を出展。トヨタも後輪駆動の小型スポーツカーコンセプト「S−FR」を披露し、走りやスタイリングをアピールする。
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「マハラジャ」など流行のディスコへ日産の高級セダン「シーマ」で女性を送り迎え−。そんな時代に育ったパーク24の西川社長はバブル崩壊後に物心がつき、景気の悪い話しか知らない30代前半までの若い人には自分の世代が想像できないような将来不安があるのではと話す。低価格設定や学生会員の月会費無料など、利用しやすい料金体系で提供しているのには、「もっと若い人にも車に乗ってほしい」との思いも込められていると話す。

若者の心つかめるか 若者の車離れ

関西大学大学院で建築を学ぶ牧角雄さん(24)は、車への関心が薄いとされる現代の若者のイメージに近い存在かもしれない。ゲームやパソコンが趣味で同世代の友人とも車の話題になることはない。周りも含めてデートにわざわざ車で行くという話もほとんど聞いたことがないという。

それでも、牧角さんは4年前に入会したカーシェアリングを今も退会せず続けている。数百円から千円程度の負担で友人とさまざまな場所に出かけ、楽しさや便利さを実感したからだ。運転に慣れて苦手だった車庫入れができるようになったのも収穫だった。

今は「慣れると運転は楽しい。最終的には車は持っていたほうが暮らしやすい」と考えるようになったという。今は新しく自分で車を買うということをまったく考えていないが、就職してお金を稼げるようになったら「いつかは買いたい」と話した。