TSUTAYA図書館に協業企業が呆れた理由

20151029-00090216-toyo-000-5-viewカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と公共図書館の共同運営に取り組んでいた図書館流通センター(TRC、東京・文京区)が、CCCとの協業を見直す方針を明らかにした。すでにCCCに対し、既存の協業関係を解消し、将来的にも協業しない意向を伝えたという。

TRCとCCCは共同事業体として、神奈川県海老名市の図書館運営を受託している。また愛知県小牧市でも図書館の移転・新築計画について、市とアドバイザリー業務契約を結んでいた。だが海老名市立中央図書館が10月、いわゆる「TSUTAYA図書館」としてリニューアルオープンすると、書籍の分類や蔵書などについて問題が噴出。また小牧も住民投票の反対多数結果を受け、市が両社との契約を撤回する方針を明らかにしている。

すでに新図書館の運営がスタートしている海老名で、今後どのように協業を解消するのかについて、TRCは「市、CCCとの3者で十分に協議して決める。すでにTRCが担っている業務については、当面責任を持って続ける」(広報)としている。公共図書館運営の最大手であるTRCは、CCCの何に落胆し、「絶縁」を申し入れたのか?  TRCの谷一文子会長に聞いた(取材は10月中旬に行った)。
なお、図書館運営に関するCCCの増田宗昭社長の見解については、「TSUTAYA、誤解と憶測に満ちた会社の正体」に掲載している。

CCCの独自分類に懸念を感じた

――海老名ではCCCとどう協業していますか。

 海老名には中央と有馬という2つの市立図書館があり、TRCはもともとこの2館を業務受託していた。その経緯があってCCCと共同事業体を組んだが、実際には中央をCCC、有馬をTRCが分担して運営している。問題となっている中央の運営には、当社は関与していない。

 共同事業体を組む上で、CCCによる独自分類(ライフスタイル分類)には大きな懸念を感じていた。先にCCCが指定管理者を務めていた佐賀県武雄市図書館で、返却本が書架に戻せずたまっており、司書が苦労しているという状況があった。

 これがさらに蔵書数の多い海老名に導入されたら大変なことになると危惧していた。独自分類は本との新しい出会いを生むという触れ込みだが、CCCに対して「出会いはいいが、返却後に返せなくなる、本が探せなくなるのではないか。本当にあの分類で大丈夫か」とあらかじめ疑問を呈していた。

 だが9月末、リニューアルオープンした中央の内覧会で、やはり独自分類が導入されていることを知り落胆した。「分類方法を改善するべき」と改めて提言したが、CCCの図書館事業の責任者からは「独自分類は当初からの提案。市もそれでいきましょうと言っている。変えるつもりはない。間違ったジャンルに分類されている場合は、その都度修正する」という回答だった。市にも問題があると、改めて申し上げてある。率直なところ、あの分類は図書館としてはノーだ。

――独自分類のどこが具体的に問題ですか。

 実際に本を検索していただければわかるが、どう見ても素人がタイトルや単語だけを見て判断したとしかいえない分類がある。たとえば著名な作家の食べ物に関する随筆が、料理本に分類されているような例だ。

 また独自分類の詳細な区分表が開示されておらず、系統立てて理解することが第三者にはできない。たとえて言うなら、図書館の書架が個人の本棚のようになっている。好きなように分類した当事者にとってはわかりやすいかもしれないが、第三者にはまったくわからない。通常、公共図書館が採用している日本十進分類法(NDC)はグローバルスタンダード。電子計算機のような古い言葉を使っているところもあるが、一定の評価ができる分類法だ。

 リニューアル直後に中央にTRCの人手を応援派遣したが、現場では利用者から「本がどこにあるかわからない」という問い合わせが殺到していた。利用者が探せないだけではない。TRCのスタッフも独自分類を学んでいないので、聞かれても探せない、お役に立てない。本来、司書は早く正確に情報を検索・提供できるスキルを身につけているが、そのスキルが中央ではまったく役に立たないのだ。

図書館はエンタメか?

――不適切な選書も議論を呼んでいます。

 風俗街の紹介本が問題視されているが、蔵書問題の本質は違うところにある。図書館の本来の使命は、膨大な資料を使いやすく収集・整理し、それによって利用者が仕事や生活をより豊かなものにする情報に接し、結果として「地域の知力」を上げるということ。地域にとって本当に買うべき本は何なのか、一過性でなく長期的な視点で考えなくてはならない。

 何を買うべきかについては本来、自治体ごとに基準がある。たとえば東北のある県は、小説は大量には買わず、総覧・年鑑や郷土資料を重点的に収蔵する方針だ。これは「市民が自分では買えない、ほかでは容易に手にできない本を提供する」という考え方だ。

 一方、市民が求めるから、売れているからという基準だけで作った蔵書は荒れる。ほかの自治体の例でも、流行の小説と健康関連の本ばかりが並ぶ図書館になっているところがある。CCCは海老名で、「食こそ文化」という発想から料理本を大量に集めている。彼らにとって公立図書館はエンタテインメントの一つかも知れないが、地域にとって本当に買うべき本は何なのか、遠大な価値観でもって考えて欲しい。

――蔵書については、収蔵雑誌が大幅に削減されているという問題があります。

雑誌の収蔵で重要なのは、バックナンバーがあること。雑誌によっては、永久保存しなければならないタイトルもあり、軽々に中断してはならない。確かに中央の収蔵誌数は148誌から50誌に急減した。中央の改修休館中に、TRCが運営する有馬は収蔵誌数を増やしたが、中央の現状を踏まえ、今後も現在の収蔵誌数を維持するつもりだ(注・CCCは『週刊東洋経済』における増田宗昭社長へのインタビューでこの問題の指摘を受け、雑誌の収蔵数を再拡大する方針を示している)。 雑誌以外にも武雄では重要な郷土資料が廃棄されたとの情報があった。真偽は不明だが、TRCとしては警戒感を抱き、絶対に廃棄されてはまずい重要な郷土資料を有馬で引き取ることにした。CCCからは「郷土資料は大量には中央館に置けない。ぜひ有馬で運用して下さい」と快諾された。

 ほかにも小学生向けの本の問題がある。中央は料理や旅行といった大人向けの趣味の本と、絵本のような未就学児童向けの本が充実している。だがその一方で、青い鳥文庫のような小学生向けの本が大幅に減らされている。これらの本は休館中に地域の学校に預けられたまま中央に戻っておらず、まだ宙に浮いている(注・10月29日現在、順次戻す予定となった)。

――共同事業体を組んだ以上、TRCにも問題に対する責任があるのでは。

 先に話したように提案はしてきたが、CCCに押し切られた。確かに共同名義で提案書を出したので、市からは「バラバラじゃ困る。一体となって運営してほしい」と言われたことがある。

公立図書館の運営は儲からない

――民間企業が公立図書館を運営するのは難しいのでしょうか。

 TRCは2005年から指定管理者を務めているが、当初は批判されることも多かった。民間企業でできるわけがない、というのが主な批判の根拠。しかし実績を積んで、一定の評価をいただけるようになった。

 ただ、儲かる事業ではない。2009年まで、事業は赤字だった。もともと公立図書館を顧客としていたので、できる限り地域の力にならせていただこうと考えて取り組んできた。今は253館でやらせていただいているので、スケールメリットを効かせて利益を生めるようになった。しかし本来、収益性の高い事業ではない。しかも近年は指定管理料が低下している。この環境の中で、事業収益を維持していくのは本当に難しい。

 民間の活力と創意工夫は公立図書館から求められているところ。CCCもデザインや空間作りはすばらしい。あんなに素晴らしいハードが作れるのに、深刻な問題があるというのはもったいない。