上司へのハンコ、斜めに押す? 金融業界の「おじぎ」慣習 「社畜!ゴマすり!」ネットでは批判の声も


ハンコを押すとき、まっすぐ押す人がほとんどだと思いますが、金融業界では左斜めに傾けて押す慣習が存在するそうです。最近、テレビや雑誌で取り上げられて話題になっています。そこに込められた意味は「部下が上司にお辞儀するように」。稟議書(りんぎしょ)などは地位の高い人が押す欄が左にあることが多いため、確かにお辞儀しているように見えます。ハンコメーカーのシヤチハタでは、ユーザーからの要望を受けて「電子印鑑」でも斜めにする機能を追加しています。

メガバンクの担当者は


本当にこんな慣習が存在するのか? あるメガバンクの広報担当者に聞いてみると、こんな答えが返ってきました。

 「私の出身行ではありました。うちは合併して今に至るのですが、銀行によって違ってますね。一概に金融業界の常識とは言えないと思います」

 入行した当初、社内文書にまっすぐハンコを押そうとしたら、「違うだろ、左斜めに傾けなきゃダメだ」と注意されたそうです。ただ、最近ではそういった指摘をする上司は、あまり見かけなくなったそうです。

ハンコの専門家に聞きました


左斜めに押す意味とは何なのか? 印鑑・ハンコの情報ポータルサイト「印鑑.com」を運営している下田優希さんは、こう説明します。

 「社内での回覧文書などで複数人が印を押す場合、部下の方は上司にお辞儀するように押印するといったことがあります。会社によってはそれが常識の押し方というところもあるようです。右に傾けると威張って見える一方、左に傾ければお辞儀をしているように見え、控えめな印象を与えられるからといわれています。終身雇用などもあり、上下関係が厳しかった日本ならではの発想ですよね」

 具体的な押し方としては、時計の11時半の形のように左側に若干傾けて斜めにするそうです。

 こうした押し方に対して、ハンコ屋さんが加盟する全日本印章業協会の中島正一会長はこう話します。「印影がしっかりしていて、本人が確認できる押し方であれば問題ないと思います」

ネット上では批判の声も


こうした慣習について、ネット上ではこんな声が上がっています。批判的な意見が多いようです。

 「まっすぐの方がきっちりしてていい」
 「行き過ぎ。外から見ると不気味」
 「いわゆる社畜」
 「くだらない。ゴマすりはわかるが」
 「この力を違うところに注げば生産性が上がるのに」
 「そうでもしないと暇が潰れないんだろう」

電子印鑑にも斜め機能が 上司へのハンコ、斜めに押す


ハンコメーカーのシヤチハタでは、電子印鑑システム「パソコン決裁」という商品に、印影を斜めにする機能をつけています。ちなみに電子印鑑は、パソコンで作成した社内文書や企業間でのやり取りに使用する見積書などの電子文書に使用する認め印です。なぜ、わざわざ斜めにする機能をつけたのか? 開発担当者に聞きました。

 ――おじぎの意味を込めて左斜めに押すという慣習をご存じですか

 「はい。存じております。業界・業種を特定できないのですが、お客様から『斜め(または逆さ)に押印したい』という要望を受けていました」

 ――斜めにする機能について教えて下さい

 「ちょっと左、ちょっと右、垂直といった動かし方以外に、任意の角度も設定できます」

 ――どういう理由から実装されたのでしょうか

 「1995年の発売当初からあったのではなく、2008年リリースのバージョンより追加しました。お客様からのご要望を受けての対応です」

 ――斜めに押す慣習について、どう思いますか

 「会社ごとに、それぞれのルールが存在するのは当然と思います。角度をつけて押すことで、感情を表現できるのでしたら、文字にない情報を残すことができるわけですから、それは素晴らしいことだと思います」

あくまで慣習です 上司へのハンコ、斜めに押す


下田さんによると、左以外にも右斜めに傾ける慣習も存在するそうです。「右斜めに傾けるのは、ビジネスの場などにおいては縁起がいいという話もあります。ただし、左に傾けた場合も『右肩が上がる』ので縁起が良いといういわれもあり、様々な説があるようです」

 ただし、斜めに押すのはあくまで慣習です。下田さんは「まっすぐな押し方じゃないとだらしがないと思われたり、雑に見えたりすることがあります、あちこちに取材した結論としては、社外では斜めにせず、まっすぐにビシッと押すように心がけた方が良いと思います」と話します。