三菱自 SUV開発部長「諭旨退職」 いったいなぜ

三菱自動車は、2016年に予定していた主力車「RVR」のフルモデルチェンジを延期した。開発に失敗した担当部長2人を諭旨退職とし、相川哲郎社長の役員報酬の一部自主返納や執行役員ら2人を降格する処分を11月1日付で行った。「開発段階で上司への報告が不適切だった」ことを処分の理由としているが、「諭旨退職」とは相当な処分内容だ。いったい何があったのか。

スポーツタイプ多目的車(SUV)の「RVR」は、14年度の販売台数が21万台と、同社全体の2割を占める主力車だ。10年に行った前回モデルチェンジから6年となる来年に全面的なモデルチェンジを行い、燃費を向上させたガソリン車と、家庭用電源で充電できるプラグインハイブリッド(PHV)の投入を予定していた。

 今年3月に開催されたジュネーブのモーターショーで、試作車「XR−PHEVII」を発表し、これが新型RVRのベースになるとみられていた。

 ◇「上司に正しい報告をしなかった」

 ところが、10月末に、開発を担当していた部長2人の諭旨退職や常務執行役員と品質統括本部長を11月1日付で降格させる人事を発表。社長の報酬一部返納を決めた。

 同社広報は、「RVR」の開発を巡って、「車両の重量が想定より増え、結果的に燃費や二酸化炭素(CO2)排出量といった目標の達成が難しくなった」と説明する。さらに、開発段階で、上司に対して目標値の達成見込みやリスク情報が、正しく報告されなかったというのだ。

 車体が重くなれば、その分、走行に必要なガソリンの消費量が増え、燃費が悪くなると同時にCO2排出量が増えてしまう。重量のコントロールは新車開発という自動車メーカーの将来を左右するプロジェクトのキーポイントの一つだ。

 そして、開発に失敗したプラグインハイブリッドは、エンジンと電気モーターを併用し、家庭用電源で充電できるものだ。ますます厳しくなる世界の排ガス規制を、新しい技術でどう達成していくかも自動車メーカーの生き残りを左右する。独自動車大手のフォルクスワーゲンは、その排ガス規制で不正を働き、全世界でリコールという一大スキャンダルを起こしたのだ。

 新型RVR開発陣は、その重量抑制に失敗しただけでなく、「計画通り達成できる」と上司に虚偽の報告をしていたという。「諭旨退職」という重い処分が行われたということは、「単に正しく報告しなかっただけではないのでは」という見方もくすぶる。

 ◇開発の遅れに対するけじめをつけた

 だが、三菱自動車の広報は「国への虚偽報告などの不祥事ではない」と、法に触れるようなことが行われたとの見方を全面的に否定する。そして「(三菱自の)数少ないラインアップ車種での開発の遅れに対するけじめをつけた」と説明する。

 新車発表の1年前の問題発覚は同社にとって大きな目算狂いだ。しかもRVRという看板車種の全面リニューアルと、プラグインハイブリッドという環境技術をアピールする場を失ったのは痛手だ。

 このため、同社は販売ラインアップの見直しを進め、10月に開催した「東京モーターショー」に出展した「MITSUBISHI eX Concept」をRVRの改良モデルとして位置づけた。「eX」は現行RVRと比べ、ひと回りコンパクトなサイズだ。

 そして販売を3年遅らせて19年中の販売を目指す一方、当初16年に市場への投入を予定していた「XR」は、上級車種の「アウトランダー」と、次期「RVR」の中間に位置する「アッパークラス」として計画から1年遅れの17年度内の販売を目指すという。

 ◇環境技術のアピールにも失敗

 三菱自動車は2000年と04年のリコール(回収・無償修理)隠しをきっかけに経営不振に陥り、14年3月期に三菱グループ4社が保有する優先株を処理した。今夏には、米国で唯一の生産拠点だったイリノイ州の工場撤退を発表している。

 三菱自動車は、09年6月に世界で初めて量産型電気自動車(EV)「i-MiEV」を発表した。相川社長は昨年8月、「20年には全販売車両の20%をプラグインハイブリッドか電気自動車にする」と意気込みを示したが、その出はなをくじかれた格好だ。