パナ津賀社長が打った「あえて」減収減益予想

「前期は売上高の目標と実績で乖離があった。出来もしない増収計画で進んでいたかもしれない」――。

 4月28日に行われたパナソニックの2016年3月期の本決算会見。津賀一宏社長は反省の弁を述べながらも余裕があった。

 2016年3月期の実績は、売上高7兆5537億円、営業利益4157億円(2015年3月期は同7兆7150億円、3819億円。いずれも米国会計基準)となり、減収増益で着地した。中国でエアコンやノートパソコン向け二次電池の販売が低迷し、国内ソーラー事業も市況悪化により数量が落ち込んだ影響で、売上高は前年割れ。ただ、営業利益は固定費削減やパナソニックの得意とする原価低減の徹底により、津賀社長が就任した2013年3月期以降、4期連続の増益となった。

 新たに今期末から導入する国際会計基準(IFRS)ベースでは、2017年3月期の業績見通しは、売上高7兆6000億円(前期7兆6263億円)、調整後営業利益は3850億円(同4132億円)で、減収減益予想となる。期初から2015年末に買収した米業務用冷蔵庫大手のハスマン社(2014年12月期は売上高1300億円、営業利益90億円)が連結されるものの、それでも今期は前期実績に届かない見通しだ。

■ 売上高10兆円目標は撤回した

 もっとも、会見に現れた津賀社長に、悲壮感はなかった。今期の減益は“あえて”減益と考えているからだ。

 2012年の就任後、津賀社長はプラズマテレビや家庭用スマートフォンなど不採算事業から撤退し、収益改善を推し進めた。同時に車載や住宅などBtoBビジネスに経営資源を集中させる方針に転換。これらの改革の結果、営業利益を右肩上がりで回復させた実績がある。

 2014年からは、「2019年3月期売上高10兆円」を目標に掲げ、売上高の再成長を狙っていた。しかし、中国の景気悪化や市場環境の変化などによって思うように伸びず、今年3月に撤回。その経験が冒頭の津賀社長のコメントに繋がったと言える。同時期の目標としては、売上高でなく、営業利益4500億円、純利益2500億円以上(IFRSベース)に置いた。

利益ベースの成長に回帰したが、今期は「成長に向けた足場固めの年」に位置付け、車載事業の開発費増や住宅事業の人員強化で、約500億円の先行投資を見込む。そのため期初から減益見通しを発表した。

 追わないと決めた売上高は微減予想だが、2015年比で為替が円高に振れているため、円換算した際に金額が目減りすることを考慮(前期実績は1ドル120円、今期想定は同115円)。さらに、想定外の下振れリスクを吸収するためのバッファーとして2000億円見積もっており、今期の売上高は前期と打って変わって、“堅い”予想であると言える。

 問題は、その先行投資が来期以降、実を結ぶかどうかだ。

■ 「もうヤケクソ。分からないから勘や」

 津賀社長は4月中旬に東洋経済のインタビューに応じ、「(期初から減益計画を出すことは理解されないかもしれないが)もうヤケクソやということ。将来のことが分かっていたら、(前期の下方修正のように)売上高が4,500億円も未達になることはない。分からないから、勘や、としか言い様がない」と、正直な心の内を語った。

 この6月で就任5年目を迎え、その勘も「働くようになってきたのは間違いない」と語る津賀社長。正しい一手で描いた成長を引き寄せることができるのか。勝負の1年が始まった。