熊本地震の被災建物 「危険」判定に焦りと嘆き

熊本地震で被災した建物の応急危険度判定で、立ち入りが「危険」と判定された建物が1万4722棟(5日時点)に上り、6476棟だった阪神・淡路大震災の2倍を超えた。被災建物の一部しか判定されなかった阪神・淡路との直接比較はできないが、熊本では相次ぐ余震が判定を厳しくさせている側面も。判定は暫定的な目安で強制力はなく、危険判定でも瓦や外壁を補修すれば使える建物もあるとみられるが、住民や店主らには困惑が広がっている。

判定は倒壊や落下物による二次被害を防ぐための情報提供が目的で、被災市町村が実施。応援も含め判定士の資格を持つ職員が目視で調査し、「危険」(赤)▽「要注意」(黄)▽建物の使用可能を意味する「調査済み」(緑)−の3種類の紙を張っていく。

 「客が怖がって入らなくなる」「建て替えなら退去したい」

 4月29日夜、熊本市街の「下通センタービル」。入居するスナックや居酒屋などの店主約10人が集まった緊急の組合会は、焦りと嘆きの声に包まれた。

 直前にさいたま市の応援職員らが訪れ、壁のひび割れを確認して張った紙の色は「赤」だった。困惑した組合長は急いで熊本市に追加調査を依頼。店主らには「柱は無事だ。補修の方向で検討したい」と伝えて場を収めた。

 被災地では混乱の中で判定の制度が十分に理解されず、「赤紙ショック」との言葉が飛び交う。同ビルの居酒屋店主、坂本安廣さん(67)は「地震はまだ終わりじゃなか。『赤』だけじゃなく、どの建物も『絶対に大丈夫』とは言えない状況だ」とし、生活のため常連客らを相手に営業を続ける。客足を考えると赤紙をはがしたい気にもなるが、「客や歩行者の安全を考えれば、そんなことをするわけにもいかない」と自らに言い聞かせる。

 熊本県出身のタレント、スザンヌさん(29)の妹で、飲食店を母と営む山本真央さん(27)も、3、4年前に中古で購入した同市内のマンションに赤紙を張られ、避難所生活を送った。

 「そこに家があるのに住めないのがつらい」。管理組合であらためて建築士に調べてもらったが、「住み続けるかどうかは自己責任」と言われた。1日に恐る恐る帰宅したが、戻った世帯はほとんどいなかった。山本さんは「とにかく余震が早く終息してほしい。普通の生活に戻って、まちの活気を取り戻したい」と願う。