三菱自に「物言えぬ風土」 燃費目標、現場を圧迫

「子会社は再三の燃費目標引き上げに疑問」「高圧的言動による物言えぬ風土」――。燃費偽装問題で三菱自動車がまとめた調査結果には、上層部が燃費目標を5回引き上げるなかで、達成できなかった現場が子会社に不正を指示し、データ偽装に走った実態が描かれた。

 偽装の詳細が明らかになったのは軽自動車「eKワゴン」と「デイズ」。日産自動車との合弁事業第1弾として燃費を一番の「売り」に開発が始まり、燃費試験データのとりまとめは子会社「三菱自動車エンジニアリング(MAE)」に委託した。

 開発が始まった2011年2月時点の燃費目標は、燃料1リットル当たり26・4キロ。初期段階では、燃費算出の元データとなる、路面や空気との摩擦による「走行抵抗」は、前モデルの実測値から推定した値を使っていた。12年8月までに目標は4回引き上げられ、29・0キロになった。

 実車試験で走行抵抗は小さくなるとの見通しに基づき、性能実験部長が同年9月の会議で「目標は達成」と報告。同年11月の実測では思うような結果が得られなかったのに、次の会議で販売や生産を含めた車種の全責任者、プロジェクト・エグゼクティブ(PX)が29・2キロまで引き上げるよう求めた。

 MAEと本社性能実験部の管理職は、走行抵抗が小さくなるとされる温暖なタイでの試験を計画。MAEが13年1〜2月に現地で試験を行ったが、ここでも29・2キロを達成できるような値は得られなかった。MAE管理職が相談したところ、本社の同部管理職は有利な値を抽出してデータを算出するよう指示した。MAE管理職は「過去の経験から目標達成は厳しい」と疑問を抱いていたという。

 調査結果は、不正の背景に「競合が激しい軽自動車分野での燃費トップ達成」を目指して上層部が掲げた燃費目標が「必達」と受け止められたことがある、と指摘した。一部の管理者で検証意識が不足し、コミュニケーションが欠落したことも要因にあげた。