巨像・トヨタに激震…利益1兆円消失の危機

2017年3月期決算の前提となる為替レートを見てみよう。主要企業360社のうち、1ドル=110円に設定している企業が全体の52%を占めた。

・100円
日精樹脂工業

・105円
トヨタ自動車、トヨタ紡績、豊田自動織機、小松製作所(コマツ)、三菱電機、ファナック、小糸製作所、日野自動車、豊田合成、富士重工業、本田技研工業(ホンダ)、日産自動車、スズキ、東レ

・108円
 ヒロセ電機、商船三井、オリンパス、日本ガイシ

・109円
 オークマ

・110円
イビデン、富士フイルム、安川電機、マキタ、日本電産、オムロン、アルプス、京セラ、村田製作所、日東電工、デンソー、川崎重工業、マツダ、リコー、任天堂、日本郵船、川崎汽船、キッコーマン、日立製作所、富士通、TDK、ニコン、武田薬品工業、三菱重工業、ダイキン工業

・111.05円
キヤノン

・113円
ソニー

・115円
東京ガス、スタンレー電気、パナソニック、日本電気(NEC)、LIXIL、ウシオ電機

・118円
信越化学工業

 ちなみに、円高メリット企業であるアサヒグループホールディングスは120円、日本航空(JAL)は123円に設定している。

●自動車業界は円高で苦戦か

 最も円高に想定レートを設定した日精樹脂工業は、射出成形機の最大手。輸出比率が全体の47%だ。

 三菱電機は1ドル=105円で為替を設定しているが、「円高により利益は500億円程度、目減りする」とみている。

 為替に一番敏感なのは自動車業界だ。円高による株価の下落率は業種別日経平均より大きく、ほぼ2倍だ。

 輸出関連企業の17年3月期の為替の前提は、1ドル=110円が中心になった。しかし、4月下旬からの急騰な円高を受けて、想定レートを105円にした会社も増えた。110円を想定為替レートにしている自動車株は売りである。マツダがこれに該当する。

 自動車業界の為替影響度は1円(円高)で1000億円。今期は、自動車業界全体で1兆〜1兆5000億円の営業減益要因になるとみるのが無難かもしれない。外国人投資家は1ドル=110円を突破した段階で自動車株を売り、持ち株を減らした。

 17年3月期に大幅な減益を見込む主要な自動車メーカーは105円の設定だが、電機や機械は実勢よりやや円安の設定が多い。現行水準より円高が進めば、電機・機械の業績は下振れする。111円超に設定しているキヤノンは、業績の下振れリスクが大きそうだ。

 トヨタ自動車は、17年3月期を大幅な減益と予想しているが、株価は4月11日の年初来安値(5256円)を割り込まず、踏みとどまっている。トヨタ・ショックをマーケットが回避できたのは、「会社側がかなり厳しい前提で決算予想を出してきた」との認識が広がったためだ。

 連結営業利益は、前期比1兆1500億円(40.4%)のマイナスだが、実質1兆円が為替の円高によるもの。1ドル=105円のほか、1カナダドル=80円、1ルーブル=1.55円と、時価に対してかなり円高に設定している。トヨタは米ドルの場合1円の円安で420億円の利益の押し上げ要因になる。タカタのエアバッグ欠陥に伴うリコールの経費も1500億円程度見込んでいる。会社の実態より利益は抑制されているとアナリストは判断している。

 豊田章男社長は「(16年3月期までの)業績は追い風参考記録」とはっきり言っている。トヨタと対照的に、日産自動車は強気の決算見通しを出しているが、どちらの見通しが正解なのかは、早ければ3カ月後、遅くとも半年後には判明する。

 一方、円高メリットを享受できるのはJALだ。今期の為替レートは1ドル=123円に設定しているが、現状との乖離が大きい。1円の円高で年間10億円の営業利益を押し上げる。同業のANAホールディングスは、為替ヘッジによって円高・円安のいずれに動いても収益への影響はほとんどないため、円高メリット企業とはいえない。

 ソニーが設定している113円という為替レートについては、見方が分かれている。円安に設定しすぎているきらいはあるが、ソニーは製品を国内でつくらず、今はほとんど輸入している。つまり、円安メリット企業でなくなっている。