安倍政権:リスク回避へ経済対策急ぐ−財政支出規模や財源が課題


参院選を終え、安倍晋三首相は秋に向け経済対策の策定を急ぐ。英国の欧州連合(EU)離脱や中国の景気減速、円高進行などの下振れリスクを抱える中、民間投資や消費の喚起策が柱になる見込みだが、難題は財源だ。対策の規模によっては国債の追加発行は避けられないとの見方もある。

安倍首相は10日夜、選挙結果を受けた「ニコニコ動画」のインタビューで、「EUの状況が不透明さを増しており、新興国経済にも心配な点が多々ある」と指摘したうえで、新たな危機回避へ政策を総動員するとした伊勢志摩サミットのG7首脳宣言にのっとって経済対策を実施すると発言。今秋の臨時国会で「デフレからの脱出スピード加速」に向けた補正予算を編成する方針を示した。

安倍首相は6月1日の会見で、「総合的かつ大胆な経済対策」を秋に講じる方針を表明した。民間投資の促進が最も重要だと説明し、リニア中央新幹線の計画前倒しや新幹線の建設加速、保育所や介護施設の整備を挙げた。公明党は参院選の公約で、プレミアム付商品券や旅行券の発行のほか、全国規模のセールスイベントの実施などに触れ、「消費を喚起する施策を含む経済対策」を掲げた。

財政拡張路線への転換年に

焦点の一つは、経済対策の実施に伴う2016年度2次補正予算の規模だ。財務省によると、15年度は後半からの円高で企業収益が振るわず法人税収が1兆円近く減収、7年ぶりに予算額を約1400億円下回った。今年度補正予算に回せる剰余金も約2500億円と前年度(約2兆2000億円)のほぼ1割に減少。円高の進行で輸出企業の収益環境が悪化しており、今年度の税収上振れも期待しにくい。

第一生命経済研究所の星野卓也副主任エコノミストは4日付リポートで、補正財源として確保できるのは「多く見積もって2兆円」で、「追加の国債発行も俎(そ)上に載る」と予想。マイナス金利導入などによる金利低下で利払い費などの不用額が2.5兆円発生すると試算するものの、うち約7800億円は熊本地震対策の第1次補正予算に充てており、今年度税収の減額補正も必要になるとみる。

安倍政権で13年度以降編成した補正予算は、1−2兆円の前年度の剰余金や、円安・株高で増加した法人税収など2兆円前後の税収の上振れ、1兆円超の国債費の不用額などを財源として3兆−5兆円規模で編成、3年連続で国債の追加発行も回避してきた。星野氏は「16年度は財政拡張路線への転換年になる」と指摘する。

マイナス金利の弊害

内閣官房参与の藤井聡京都大学大学院教授は6日のブルームバーグのインタビューで、2016年度中に20兆円規模の経済対策を打てば、17年度中の2%の物価安定目標は達成可能になるとの認識を示した。20兆円の内訳について藤井氏は、財政投融資で5兆円、真水の補正予算で15兆円を提言した。

SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは、経済対策は国費5兆円程度で収め、国債費などの不用で1−2兆円、残りは建設国債を発行し、公共投資で2−3兆円を捻出すると見積もる。しかし、「5兆円でも過大だ。景気は改善もしていなければ落ちてもいない。そういう状態で大きな補正を打つと反動でその後、景気が落ち込み財政支出の恒常化を招く」と懸念する。

一方、異次元緩和下で日本銀行が国債を大量に買い入れ、需給が逼迫(ひっぱく)している中、国債増発は市場にとってむしろ朗報だ。宮前氏は、1月のマイナス金利導入によって「市場の観点から言って利回り上昇をいかに抑えるかという次元ではなくなっている」と、「マイナス金利の弊害」を問題視している。