生前退位意向 与党幹部「他の問題難しい」優先論点が浮上

◇政府、皇室典範改正など法整備の検討を始める

 政府は天皇の「生前退位」を可能にするため、皇室典範改正など法整備の検討を始める。戦後に皇籍離脱した旧宮家の子孫を皇籍復帰させるなど皇位継承を巡る問題は、世論が割れる懸念があり先送りになりそうだ。

これまで政府が検討してきたのは、皇族が減少する問題への対応だった。皇室典範第1条は「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」とあり、皇太子さまより下の世代では、皇位継承の資格があるのは弟の秋篠宮さまとその長男、悠仁さましかいない。女性皇族は結婚により皇族を離れるため、近いうちに皇族の人数が急速に減る。将来的には悠仁さまに男児が生まれなければ皇位継承者がいなくなる。喫緊の課題だが、過去に政府が議論を進めた際は世論が割れた。

 安倍晋三首相は、父方の血統が天皇につながらない「女系天皇」に反対の立場だ。第二次世界大戦で敗戦後、連合国軍総司令部(GHQ)占領下の1947年に皇籍離脱させられた旧11宮家の子孫(男系男子)の皇籍復帰を主張している。皇室典範には、皇籍離脱した旧皇族の復帰に関する規定はない。文芸春秋2012年2月号では「占領体制からの復帰という観点から特別立法の制定で、皇族たるにふさわしい方々に復帰していただく」と提案した。

 12年12月の政権復帰後も、この方向を探っているとみられる。政府は内閣官房皇室典範改正準備室で検討を続けており、政府関係者は旧宮家復帰を「さまざま検討したうちの一つ」と話す。保守系議員らの間では、参院選後に長期政権の基盤ができれば着手するとの期待があった。

 しかし皇室典範に詳しい保守系の学者は「退位の問題の議論が優先され、旧宮家復帰の話は吹き飛んでしまう」との見方を示した。退位だけでも大きな変革で、皇位継承も絡めば議論が拡散し、世論の反応も読めない。民進党の岡田克也代表は14日の記者会見で「多くの国民が一致する結論を期待したい」と述べ、女系・女性天皇など皇位継承問題については「ここまで広げて議論すると、まとまりにくい」との認識を示した。与党幹部も「(退位問題が)安倍政権の一大仕事になる。他の問題を同時にやるのは難しい」と語った。

 政府は90年代後半から水面下で女系・女性天皇容認の検討を始め、05年に小泉政権が有識者会議の報告書をまとめた。しかし、保守系団体「日本会議」や所属国会議員が「男系男子で継承した皇室の歴史が断絶される」と反対運動を展開。06年9月に悠仁さまが誕生し、直後に発足した第1次安倍政権は検討を先送りした。

 12年に野田政権は、女性皇族が結婚後も皇室にとどまる「女性宮家」創設を柱とする論点整理をまとめた。この時も保守派が「将来的に女性宮家の子どもにも皇位継承権が与えられ、女系天皇が誕生する」と反発した。